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  <title type="text">Easy Horror</title>
  <subtitle type="html">擬人化リヴリー中心の非公式好き勝手ブログなので無視して下さい</subtitle>
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  <updated>2008-01-25T03:33:22+09:00</updated>
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    <published>2020-05-05T04:19:19+09:00</published> 
    <updated>2020-05-05T04:19:19+09:00</updated> 
    <category term="LIVLY" label="LIVLY" />
    <title>エアロライト</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[走り出した時、彼女の靴が片方だけ脱げた。自分の足から靴が脱げたら気づかないはずはないのに、それでもキャサリンは走り続けることに一瞬の躊躇もしなかった。反射的に手を伸ばして、指先で彼女の薄くて柔らかくて気持ちのいい靴を捕まえる。キャッチできたことにホッとした。彼女は裸足で、俺のすぐ前を笑いながら駆けていた。楽しくて楽しくてたまらないみたいに、笑い転げながら走り続けた。走るのに夢中で振り返らない。羽も生えていないのに、信じられないくらい軽やかに走っていく。なんだかその姿に不安になって、俺は彼女を見失いたくなくて、思わずその小さな背中を追いかけた。<br />
<br />
「月が出てる」<br />
<br />
丘のてっぺんまで登って来た時、走り通しだったキャサリンはようやく立ち止まり、一言だけ、独り言のように言った。野生児め、と肩で息をしながら、最後に登って来たキャスケットが悪態をつく。<br />
<br />
「リヴリーのくせに、」<br />
<br />
そう言うのが精一杯だったのだろう、キャスケットはその後を続けられず、ばたりと背中から丘の上に転がった。息が切れているのは彼だけではない。俺も自分の呼吸を整えるのに精一杯で、月を背に夜風に目を閉じる彼女に声をかけるのもままならない。子鹿のように跳ねる娘だとは思っていたが、男二人を相手に鬼ごっこをして笑顔でいるとは想像以上のバイタリティだ。彼女はリヴリーで、俺たちはモンスターなのだから、その屈託のない笑顔はどこまでも能天気だと言うべきかもしれない。<br />
<br />
「彗星！」<br />
「&hellip;どこ？」<br />
「消えちゃった」<br />
<br />
突然空を突き刺すように指を立てたかと思えば、またゆるりと顔を緩める。くるくると表情を変えてみせる彼女に、俺たちは付いて行くのに精一杯。今度は向こう！と指差して、キャサリンはまた月に向かって走り出した。咄嗟にキャスケットを見た俺に、彼は一瞬だけ視線を寄越し、そのまま"さっさと行け"と手で合図をした。もうガキのお守りもうんざりだと言いたいのだろう、お前がちゃんと面倒見ろという無言の圧力を背中に感じつつキャサリンを追う。大きなツノを持つリヴリーは丘の反対側でぽかんと口を開けながら、大の字に寝転がって月を見ていた。<br />
<br />
「世界が全部自分のものみたいな気がする」<br />
<br />
近づいた俺に、彼女はぽつりと呟いた。顔をよく見れば、心なしかその頰は赤く染まっているようだ。丘まで一気に走ったせいか、それとも走る前に飲んだぶどう酒のせいか。ディナーのデザートを食べていた彼女が、あれを飲んだ瞬間に突然家から飛び出して行ったので、俺は面食らって後を追ったのだ。俺と同じように混乱しながらも、放っておけとキャスケットはぶっきらぼうに言った。しかし俺がキャサリンに続けば、なんだかんだでついて来た。結局そういうところがある。<br />
<br />
「あの女、やっぱりイカレてる」と、キャサリンを追う最中、息を切らせながらキャスは言った。「ジュリアにチクってやる、優等生のヘンリーが、クソガキに絆されて、道を誤ろうとしてるってな」。<br />
彼がそうキレ気味に吐き捨てるのを背中で聞きながら笑う。姉さんは女王蜂だ。絶対にこんな突飛な行動はしない。リヴリーってものはみんなこういう変なことをしでかすのかなと自分なりに納得しかけていたので、彼がいちいちキャサリンに対して期待し、裏切られて憤慨するのを見ていると、なんだか少し愉快で、不思議な気持ちだ。彼を見て、正しい反応はこうなのか、と思ったりもする。俺は彼女といると不安になることも多いから。突飛な行動でいちいち彼を怒らせるキャサリンのことを、俺たちは気に入っている。いや、キャスはどうだか知らないけど。<br />
<br />
草原に寝転んで目を閉じている彼女の隣に立てば、夜風に運ばれてぶどう酒の甘い香りがする。いい匂いだ、と思う。夏の草木の匂いがする。すぐ頭の上には、細い三日月が輝いている。<br />
<br />
「お酒弱いんだね」<br />
「弱くないわ」<br />
「じゃ、なんで飛び出して行ったの？」<br />
「なんだかものすごく走りたくなったから」<br />
<br />
くすくす笑いながら、寝転がったままのリヴリーは乱れた髪もそのままに、のんきに答えた。君は変わってる、と、出会ってから何度目になるかわからない感想を口に出す。彼女の答えも毎回同じだった。「あなただって変わってるんだから」。<br />
<br />
「世界が全部自分のものみたいな気がするの」<br />
キャサリンはまた繰り返して独りごち、空を見上げた。<br />
「悲しみも喜びも、全部、今なら全部愛せる気がする。この瞬間のために、今までがあったんじゃないかなって思ってるの、今」<br />
<br />
俺は黙って彼女の隣に座って、柔らかくて短い芝に触れ、目では彼女が眺める空を眺めた。何が彼女をそんなセンチメンタルな気持ちにさせているのかわからなかったから、彼女が今感じているものを、彼女と同じように感じてみたかった。しかしすぐに諦めた。彼女の言う世界も、喜びも、悲しみも、俺には思い浮かばなかった。だから隣で横たわっている彼女を見た。彼女の澄きとおった空色の瞳も、ちょうど、俺を見たところだった。<br />
<br />
「言ってること、わかる？」<br />
「足を」<br />
<br />
焦ったそうに彼女が俺を見て、俺は彼女の質問に答える代わりに、草原に投げ出された彼女の足を取る。脱げた靴を俺が持っていると知った彼女は、その時初めて退屈そうな顔をした。<br />
<br />
「そんなの、捨てて来てよかったのに」<br />
「裸足で走ったら怪我するよ」<br />
<br />
リヴリーは怪我をしたらすぐには治らないだろ。ぼやいた俺の言葉に、彼女はため息で返す。彼女に傷ついて欲しくないと俺は思うのに、当の本人はそういうことにまるで無頓着だ。<br />
彼女の白い足に触れると、その肌がずいぶん火照っているのが分かった。す、と指先を滑らせてから、包むように触れる。キャサリンは足を引っ込めようとはしない。熱を取ろうと、足の裏へ手を伸ばし、ゆっくり摩る。かかとから、踝に。踝から、ふくらはぎに。<br />
まだ生暖かい夜風がゆるりと吹いて、彼女のスカートが草の隙間でそよいだ。顔を上げれば、火照ったままの顔の彼女と、目が合った。<br />
<br />
「履かせてくれる？」<br />
<br />
彼女がゆっくりと言って、俺はただその微笑みを見つめ、その声は頭の中に甘く広がっていく。俺は目が冷めるような気持ちで胸の奥が苦しくなる。<br />
<br />
布でできた銀色の靴は柔らかく、履かせれば何故脱げたのかわからないほど、彼女の足にぴったりだった。洒落た靴ではない。そのぺたんとした銀色の靴は、森の中を動き回る彼女を守って傷だらけだった。だからこそ美しいと思った。俺は自分の手で履かせたその靴と、その靴を履いた白い足を、少しの間黙って見つめた。<br />
<br />
世界が全部自分のものになっているような気持ち。<br />
全ての喜びも、悲しみも、全て愛して、受け入れて、これが自分なんだと、叫んで、走りたくなるような気持ち。<br />
<br />
キャサリンの言葉を繰り返す。彼女と同じ気持ちになりたくて、その意味を想像する。どうやって判断したらいい。君が嬉しいなら俺も嬉しいけど、でもそれが悲しみになる時が来るとしたら、そう思った瞬間にはもう、感情は不安に変わっている。<br />
俺は迷うよ。どうしたらいいかわからなくなる。自分の気持ちは感じないようにして生きてきた。<br />
女王陛下の右腕として、彼女を守る忠実な近衛兵として。どんな時も彼女の命令を疑わず、遂行するのが、俺の、俺であるための存在意義だ。<br />
<br />
迷っちゃダメなんだ。強くなきゃダメなんだ。ただひたすら女王蜂のために、守るべきものを守るために、一切の迷いを捨て、躊躇なく、敵を討てるように。俺はそういう風に生きてきたんだ。<br />
<br />
それなのに、今、俺は、君に対する自分の気持ちを知りたがってる。<br />
<br />
彼女の横顔を見る。流れる星を眺める瞳が、光を集めて瞬いている。<br />
君が森の中で俺を見つけて、ジャムの蓋を開けるように頼んで来た時の顔を、俺はずっと頭の中で繰り返してる。君がどんな気持ちだったか、俺がどんな気持ちだったか、はっきりとこれだと言葉にできないけど、どうしても覚えておきたい。<br />
だから今日の日のこともきっと忘れない。君の足に触れた時の感覚を、その体温を、足の小ささを、君が少しだけ頰を緩めた、その表情を。<br />
これから先、君が見てる世界を、一緒にそばで見ていたい。<br />
<br />
キャサリン。君に伝えたくない。でも、伝えられたらどんなに楽だろう。<br />
君みたいに強くない。でもそうだ、君の言葉を借りるなら、多分、これが俺だ。<br />
<br />
「ねえ！踊ろう！ハルくん」<br />
<br />
突然キャサリンがそう言って立ち上がり、俺は呆然とその姿を目で追った。夜空に浮かぶ月を背景に、彼女は楽しそうな顔で、俺の頭をまるで犬か何かをめちゃくちゃに撫で回すときのように撫でた。俺を立たせようと無理やり手を取るキャサリンに、俺は心配と、戸惑いの、半分ずつ混ざった気持ちで呻く。<br />
<br />
「キャサリン、酔ってるんだよ」<br />
「酔ってない！わたし今、燃えてるの！ものすごい勢いで燃えている。落下中の彗星よ。ある場所を目指して落ちてるの。でもどこに落ちるかわたしにも分からない！そして、たどり着く前に燃え尽きて死ぬかも。そうだとしても、"今"が楽しいの」<br />
<br />
君はすでに眩しいよ、俺にとっては暴力的なまでに。<br />
<br />
「&hellip;無敵だなぁ」<br />
<br />
腑抜けた俺は溶けた笑顔で、少女につられて微笑んだ。止められない。星が燃えていることを知っているからといって、一体誰が星が死ぬのを止められる。<br />
踊ろう、と催促を繰り返す彼女に手を引かれて、重い体が引きずられるように動く。火を点けたのは俺だ。違う世界に引きずり込んだ。彼女が住む世界とは別の世界に彼女を招き入れてしまった。そしてこの俺自身も、もう戻れない。<br />
<br />
「"今"しかないの」<br />
<br />
自分自身に言い聞かせるように、あるいは、俺に言い聞かせるように、キャサリンはそっと囁いた。<br />
死んだって構わないって、彼女は思ってる。きっと、彼女が死ぬなら俺の責任だ。それでも俺は、俺は、燃えゆく君が見たいと、心のどこかで思っている。<br />
<br />
「踊ろう」<br />
「君が望むなら」<br />
<br />
心に残っていた罪悪感が、小声でそう言った。それを聞き取った耳のいい彼女は、勘違いして、照れ臭そうに顔を緩めた。彼女が死ぬまで一緒にいようと、彼女が死ぬ時俺も死のうと、そのとき俺は、そう思った。<br />
<br />
]]> 
    </content>
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    <id>wardeat.blog.shinobi.jp://entry/356</id>
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    <published>2019-12-23T02:01:14+09:00</published> 
    <updated>2019-12-23T02:01:14+09:00</updated> 
    <category term="LIVLY" label="LIVLY" />
    <title>お別れの日</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[はじまりは唐突だった。少し寒い秋の終わり頃。特に変わったことはなかった。水槽の底に吹く風はいつもと同じ。外にまで鯉壱の騒ぐ声が漏れ聞こえている。<br />
鯉壱は二階にある彼の部屋で、ありとあらゆる服をクローゼットの中から引っ張り出し、部屋の中にぶちまけて引っ掻き回していた。「パジャマを選んでるんだよ」。部屋の入り口に突っ立っていた俺に気づいた鯉壱が、いつもの調子で楽しそうに言う。鯉壱は目に痛い黄緑色と白いドット柄のパジャマを着て、鏡の前でくるくる回っているところだった。<br />
<br />
「ハイ、ハチコ。元気？　そろそろ冬眠するのかと思ってた」<br />
「もうちょっと起きてるよ。鯉壱がパジャマパーティーするって聞いたしな」<br />
<br />
はっはっは、と鯉壱はわざとらしく笑って、盛大にぶちかますよ！と叫びながらパジャマの山を蹴り上げた。ピンク色の尻尾が楽しげに揺れる。テンションぶち上がってるぜ、行儀の悪いマダラカガだ。普段ならすぐさま緑露が怪訝な顔をして鯉壱をたしなめるのに、彼女はただ座って、鯉壱がぶちまけたパジャマを丁寧に、順番に、ひとつずつたたみ直していた。緑露はいつも通りじゃなかったな。彼女はちゃんと知っていた。多分俺よりずっと、ちゃんとだ。<br />
<br />
「これ全部着るつもりか？　どんだけ持ってんだよ」。散乱した服を抱え上げて言えば、鯉壱は俺の腕からとったシャツを自分の胸に重ねて、また鏡を覗き込む。<br />
「好きな色がいっぱいあるから&hellip;迷ってるんだ、こっちもいいでしょ？　ピンクにするか、黄緑色にするか、黄色にするか&hellip;。ハチコはどうするの？」<br />
唐突に聞かれて、「パジャマ？　俺は着ないよ」と口ごもる。だって俺は、<br />
<br />
「俺は&hellip;」<br />
<br />
言い淀んだ俺の声に、緑露が顔を上げて、俺を見た。俺も緑露見ていたおかげで、彼女が寂しそうに目を細めたのがわかった。俺はどうしような。鯉壱。俺たち、これからどうしよう。ため息が出そうになるよ、全く。<br />
<br />
「俺は、ここで待ってるよ。鯉壱が起きるの待ってる」<br />
「そお？」<br />
<br />
飲み込んだ言葉の代わりに、いつもの微笑みといつもの声で、いつも通り願望を口にする。鯉壱は俺のセリフを言葉通りに受け取ったようだった。ただ眉を上げて、あっさり視線を外して、足元に落ちていた水色のワンピースを体に合わせる。鏡にふわふわ映る、金色の髪とピンクの瞳。<br />
<br />
「フラスコの中ってどんなかな？　ミルクティーを飲めるように、マグカップはリュックに入れたんだ。でももしミルクがなかったら嫌だから、それはあとで入れるつもり。あと絶対にクッキーも必要だよね？　クッキーも割れないように包まなきゃ」<br />
<br />
物悲しさに俯く大人が２名。そしていつも通り欲張りなマダラカガが１名。状況をわかってるのかわかってないのかは不明。フラスコの中でミルクティーを飲むって？　鯉壱はいったいどんなフラスコを想像してるんだ。カプセルホテルかなんかの愛称だと思ってんのかも。ホテル・フラスコ、みたいな。<br />
<br />
「なあ鯉壱&hellip;毎年冬眠こなしてる俺から一つアドバイスをやろう&hellip;冬眠の極意は、"ベッドに食べ物を持ち込むな"、だ」<br />
「どうして？」<br />
「まちがいなくデブになる」<br />
「そんな&hellip;」<br />
<br />
冗談交じりに告げたセリフに、マダラカガは驚いて困ったような顔をする。その顔が面白かったから、つい小さく笑った。笑ったついでに彼の肩に手を置いて、ワンピースをひっぺがす。なんでワンピース持ってるんだよ。似合うからいいけど。<br />
「ミルクティーとかクッキーがなくたって、寝てるだけなんだから大丈夫だよ。何も問題ない。俺だって毎回ガクッと眠って、目覚めたら春なんだぜ。一瞬だよ」「本当？　お腹空かないの？　途中で目が覚めたら？」「大丈夫だよ。爆睡。嫌んなるくらい」<br />
そう、嫌んなるくらいだ。嘘はついてない。途中で起きたって大したことない。ただ眠る前が一番最悪だ。寒さと気分の悪さと不安と恐怖で俺はほとんど眠れない。ただこれは鯉壱には内緒。俺がダサいだけだから。<br />
<br />
「第一、そんな大荷物持ち込めるのか？　全部のリヴリーが入るんだろ。荷物の制限とか、そういう大事なことは書いてないのかよ？」<br />
<br />
パジャマの山の中から、埋もれた封筒を手探りで引っ張り出す。硬めのしっかりした封筒の厚みと、それを閉じていた王国印の蝋の重みが、その通知の重要さを物語っている。<br />
<br />
全てのリヴリーたちが、研究所に引き取られる旨と、フラスコの中で眠るための準備を行うように勧告する通知。<br />
突然現れた手紙。こいつが届きさえしなかったら。<br />
<br />
舌打ちしそうになって、それを無理やり飲み込んだ。いいや。どっちみち、遅かれ早かれ着たはずだ。それが飲み込めないほど子供でもない。封筒を開けばそこには金色の文字で、文章が載っている。飼い主のところに届いた手紙とはまた別らしいと言うことを、俺はあいつから聞いていた。だけど、仰々しいぜ、全く。仰々しくてあっけない。拍子抜けするほど簡単に、その数字の羅列は並んでいた。俺にとってはそれが全て。俺たちと、鯉壱が、おそらく永遠に離れ離れになる期日。<br />
<br />
「せめて枕は持っていける？　僕、枕が変わると眠れないんだ」<br />
<br />
ちっぽけな紙を握りしめて固まっていた俺に、鯉壱はじれったそうに尋ねた。鯉壱がいなかったら、俺はその場で封筒を握りつぶしてただろう。彼は俺の手から封筒をひったくると、金色の文字を指でなぞった。「クッキーを持ち込むなって&hellip;どこにも書いてない！　さすがに許されると思う。あと枕も」<br />
<br />
鯉壱はそう呟くと、すでに限界まで膨らんだリュックの中に枕を押し込もうと走って行った。何を基準に「さすがに」なのか俺にはわからない。だが、無意識のうちすべり出たため息が、鯉壱の奔放さが原因ではないことはわかっていた。緑露が俺の肩を撫でる。驚いて、初めて俯いていたことに気がついた。今度は恥ずかしさでため息が出そうになる。かっこ悪いな。相変わらずめちゃくちゃかっこ悪いだろ。鯉壱だってわかってるはずだった。いつも通りな訳がなかった。俺だってわかっていたのだ。頭のどこかでは。認めたくなかっただけだ。いつも通りにしたかったのは、俺だった。<br />
<br />
見上げれば、緑露は優しく、でも寂しそうに微笑んだ。俺は結局、一回りも年下の緑露のそういう大人な態度にいつも救われてきた。今でもそうだ。俺たちは取り残される。彼女も同じはずなのに。「たぶん私も、ハチコと同じ気持ちです」と穏やかに、彼女は言った。<br />
<br />
「でもハチコ。あなたは落ち込む前に、まだやらなくちゃいけないことがたくさんあるはずですわ。あなたには、友達がたくさんいるでしょう？」<br />
<br />
ゆるやかに告げられる口調。お前は知ってたのかな。誰も知らない場所で行われる、ポフだけが集まる集会で、風の噂で聞いたりしたのか。そういえばあいつもときどき、今のお前みたいな寂しそうな顔してた。本当は俺だってわかってたんだ。だけど俺は知ってもなお、まだ受け入れられない。<br />
<br />
「&hellip;緑露はいっつも大人だね」<br />
「手のかかる二人組のおかげですわ」<br />
<br />
彼女の大きな手が、そっと背中を押す。行ってらっしゃい、と頭の上の方で、やさしい声が言う。大丈夫。何もかもが、なくなるわけじゃない。<br />
緑露は俺と同じ気持ちだと言った。それなら彼女のあの声も、きっと俺と同じで願望だ。願いたいから口に出した。叶えたいから俺に言った。俺は鯉壱がいない世界を生きていけるか自信がない。俺が叶えたいのはさよならじゃない。<br />
それでも、<br />
<br />
鯉壱のことはひとまず緑露に任せよう。この調子ならいつまでたっても出発できない。きっと最後の方だろう。俺は鯉壱の頭をポンと軽く叩いて、言った。<br />
<br />
「昔、違うサーバーから来たって言ったよな？　前のサーバーの奴のこと、今でも思い出すか？」<br />
「相楽たちのこと？　絶対に忘れないよ。僕、あいつらにいじめられてたんだ。言わなかったっけ？」<br />
<br />
むすっとした顔で俺を見た鯉壱は、少し俺の顔を見つめて、思い当たったように、そして残念そうに、小さく言った。<br />
<br />
「僕がハチコたちのこと、忘れると思うの？」<br />
「わかんねーだろ、クッキーの置き場とか忘れるし」<br />
<br />
それはちがう、とすぐさま鯉壱が口を尖らせる。俺は鯉壱が愛しくて、笑って彼を抱きしめる。いつもと同じように。昨日や一昨日と変わらないハグを、変わらない気持ちを、今日も、明日も、ずっと。<br />
<br />
「だから待ってる。鯉壱が起きるまで。ここで待ってる」<br />
「うん」<br />
<br />
俺の背中を、鯉壱の小さな手が抱きしめる。<br />
その感覚を永遠に忘れたくないと、俺は思った。]]> 
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    <id>wardeat.blog.shinobi.jp://entry/355</id>
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    <published>2019-09-01T23:50:31+09:00</published> 
    <updated>2019-09-01T23:50:31+09:00</updated> 
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    <title>夏休みの自由研究</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[ユニコーンを捕まえると息を巻いて、朝から鯉壱は虫取り網を振り回している。夢の中でお告げがあり、虹をかけることのできる生き物と出会ったそうだ。目の前で虹ができるところを見たい、と彼はしきりに主張し、その報酬にクッキー30枚を渡す用意がある、と俺に宣言した。<br />
　「アイスクリームを餌にしようと思ってる」と、真剣な顔で言いながら、鯉壱は捕獲作戦を開始した。溶け出したアイスを舐めながら、池の周りを歩くのだ。「甘い匂いに誘われて来るかもしれないからね。雫をこうやって地面に少しずつ垂らしてるんだよ」。俺は張り切る鯉壱の少し後ろを着いて行きながら、彼が口の周りを舐めては美味しい！と小躍りしているのを眺めた。<br />
<br />
　顔を上げれば空は青く高くて、気持ちのいい夏の日だった。池を渡る風を浴びていると、何もかもどうでもよくなる。ただあたりを意味もなく散策する理由として、いるのかどうかわからない生き物を探してみようという気にもなる。俺は鯉壱がアイスを舐めながらずんずん歩いていくのを追いかけながら、彼に尋ねた。<br />
<br />
「一応聞くけど、ユニコーンって、あのユニコーン？　おとぎ話に出てくる、角が生えてる白馬？」<br />
「そうだよ。uni、cornで一角獣だよ」<br />
「&hellip;これも一応聞くけど&hellip;そんなので捕まえられるわけ？」<br />
<br />
　鯉壱が振りかざしている虫取り網を指すと、彼は一瞬だけそれを見つめた後、うんと元気よく頷いた。大丈夫。アイスがあれば大人しいんだ。それに、まずはお友達からだよ。<br />
　俺の質問に、鯉壱は迷いもせず、揚々と答える。どこから得た情報なのかは知らないが、その姿がいたく楽しそうなので、それ以上深くは突っ込まないことにした。鯉壱がどこまで本気なのか分からないのはいつものことだ。鯉壱だって角と尻尾を持つ生き物なんだし、角を持つ馬だってその辺の草むらに普通にいるのかも。百歩譲って本当に存在していたところで、俺はお友達になれるとは思えないが、まあ、鯉壱が楽しそうならそれでいい。<br />
<br />
　鯉壱はアイスをたまにひっくり返してはポタポタと白い雫を垂らして、森の中を彷徨うヘンゼルとグレーテルさながらに慎重に歩いた。せっかくのその努力を無駄にしないよう、俺も白い道しるべを避けて歩く。避けたところで、そのハイカロリーなご馳走は蟻の餌になるだけだろうが、鯉壱の真剣さはそういうことを俺に言わせない雰囲気があった。<br />
<br />
「しっ！　静かに！」<br />
<br />
　尻尾を揺らしながら歩いていた鯉壱が、急にピタリと立ち止まってしゃがみこんだ。俺は空を見上げていたので、危うく彼の丸まった背中を蹴り飛ばすところだったが、間一髪で避けた。<br />
　ユニコーンって地面にいるの？　と間抜けな声を上げる前に、鯉壱が俺を振り向く。<br />
<br />
「セミ！！」<br />
<br />
　叫ぶなり鯉壱は土の上から拾い上げたそれを俺の服にひっかけて、また何事もなかったかのように歩きだした。俺はあまりに突然の出来事に驚いて固まっていたが、そのうち何が起きたかを理解して、それでも腹の上にしがみついている虫を引き剥がすのにちょっと苦労した。<br />
　６本の足と透明な羽。あまりまじまじと見る機会はなかった気がするが、こう唐突に現れられても困るな。鯉壱は虫が苦手なんじゃなかったっけ。セミは大丈夫なんだ。意外と怖い顔してるのに、とぼやいたら、スズメバチも顔怖いけどね、と笑われた。<br />
　鯉壱は虫取り網を杖の代わりみたいに地面に突き立てながら歩いていたが、虫かごは持ってきていないようだ。俺は鯉壱が俺にそうしたように、鯉壱の背中にそうっと透明な羽を引っ掛けた。セミはワシワシと力強く足を踏ん張りながら、鯉壱の小さな背中に捕まった。<br />
<br />
「ユニコーンも、見つけたら俺にひっつけるの？」<br />
「できそうだったらそうしてあげる」<br />
<br />
　小さなマダラカガは笑いながらそう言って、でも、蹄だから服にはくっつけられないかも。抱っこして帰らないと、とのんびりそう言った。結構ちいさい想定だな。鯉壱が思い描いているのは、子供のユニコーンかもしれない。<br />
<br />
　しばらく歩くと、そのうち池をぐるっと一周した。最初に鯉壱が落としたであろうアイスのかけらは、思った通り黒山の「アリだかり」になっていた。<br />
　鯉壱はペース配分を間違えたのか、もともとそのつもりだったのか、とにかくとっくにアイスをすべて食べ切ってしまっていたので、後半はただ歩いているだけだったが、その間にも度々立ち止まっては何かを見つけ、拾えそうなものは拾いあげて、ハンカチに包んでいた。それはシロツメクサの花だったり、木の枝だったり、謎の紙切れだったり、変な形の葉だったり、キラキラした小石だったりしたが、特に鯉壱はそういうものを集めて庭の横にある祭壇に持っていくのが好きだった。<br />
<br />
　手のひらに収まるくらいのお土産を持って鯉壱は帰宅し、蟻の群がるアイスのかけらに興味を示すこともなく、とっとと庭のパラソルの下にある椅子に座って収穫物を小さなテーブルに広げた。<br />
<br />
「水槽の底にはいろんなものが集まって来るんだよ。水槽の底って言うくらいだから、どっかから落っこちてきたものが、勝手にここへたどり着いてるんだと思うけど」<br />
<br />
　マダラカガはそう言ってハンカチを広げると、一つ一つ、獲物を丁寧につまみ上げながら調べ始める。なんとなく最後まで着いて回ってしまった俺も、ユニコーンは、と思いながらも黙って鯉壱の隣の椅子へ座った。鯉壱を見れば、俺がこっそり背中にくっつけ返しておいたセミが角の上までよじ登ってきていた。<br />
<br />
「必ず落っこちてきたものなわけ？　水槽の"底"だから？」<br />
「そう。僕が名前をつけたんだから、まちがいないよ」<br />
<br />
　自信にあふれた顔で、彼はそう言った。俺はそれを頬杖をついて見ていて、相変わらず言ってることはよくわからねえけど、まあいっかと自分を納得させた。何で知ったのかは知らないが、ユニコーンを捕まえようと言い出すだけでも鯉壱のネジの飛びっぷりは相当だ。変な奴だと思う自分がいるのも確かだが、いまさら突っ込んで否定するのもかわいそうだと思う自分もいる。ここが水槽の底なら、最初にたった一人で沈んできたのは、紛れもなく彼自身なのだから。<br />
<br />
　セミが鯉壱の角の先端までたどり着く。てっぺんまで行ったら飛ぶかな。鯉壱がシロツメクサの花びらの枚数をちぎって数えだしたとき、俺はぼんやりそう思った。あの透明な羽で、短い夏を謳歌するだろう。彼らの世界で、彼らなりの生き方で。<br />
<br />
「なんで水辺のほとりに一輪だけ咲いてたんだと思う？　普通は群生してるよね。僕の知り合いに、植物に詳しい人がいるんだ。聞いたら教えてくれるかも」<br />
<br />
　彼が花をむしるのに夢中になっている間に、セミは鳴きもせずに空へ飛び立った。<br />
　あ、と俺が口を開けた直後、鯉壱の背中越しの池の上に、大きな水柱が上がる。バシャン！！っと大きな音が響き、驚いた鯉壱は椅子に座ったまま、数センチ飛び上がった。俺は鯉壱が池を振り向くより早く立ち上がって音の先を見る。魚が跳ねたにしては音が重たかった。人間一人落っこちたような派手な水しぶきが、今も向こうの方でばしゃばしゃと豪快に暴れている。反射的に鯉壱を背中に庇おうと前に出る。波紋が大きく揺れながら岸まで届いているが、暴れまくっているのかよく見えない。<br />
　何か落ちたのか。しかも溺れてるみたいだ。とっさに俺は鯉壱を見た。鯉壱は泳ぐのが得意だ、だが行かせたくはない。まだ何が落ちたのか分からない。モンスターだったらどうする。鯉壱がさっきのアイスクリームみたいにもぐもぐ食べられるなんてこの俺が絶対にさせないが、万が一怪我の一つでもするような目にあったら。一瞬不安がちらついて、無意識のうちに動きが鈍ったかもしれない。ここで待ってろと語気を強めに言いかけた時にはもう、鯉壱はマダラカガ の素早さでまさに鉄砲玉のように飛び出し、俺を押しのけて池に近づこうとしていた。慌てて腰を掴んで引き止めて、魚のように身を乗り出す鯉壱を抑え込む。<br />
<br />
「ユニコーンが来たの？！」<br />
<br />
　この期に及んで発せられる嬉しそうな声に、んなわけねえだろ、と口走る。すぐさま鯉壱が叫んだので、俺はますます警戒して顔を上げた。視線をあげると、溺れている生き物が人間ではないことがわかった。<br />
　池の中で溺れていたのは角の生えた、白い馬だった。ああそうだ、一本まっすぐキレイに伸びた、角を持つ白馬。腕の中で、鯉壱が歓喜の悲鳴をあげる。<br />
<br />
　そう、ユニコーンが獲れたのだ。]]> 
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    <published>2019-06-22T20:18:16+09:00</published> 
    <updated>2019-06-22T20:18:16+09:00</updated> 
    <category term="LIVLY" label="LIVLY" />
    <title>水槽の底のマダラカガ</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[水槽の底は、センターサーバーのはずれにある港町から、少しだけ離れた場所の名前だ。ふざけた名前だと思うだろうが、これは歴史上多くの探検家がそうしたように、この土地を見つけた最初の人物が名付けた名前。そして鯉壱は、この名前をかなり気に入っている。綺麗な池と木々に囲まれた、居心地の良い空間。ここだけぽっかりと別の世界に飛ばされたみたいに、最初から完成され、永遠にその姿を保ち続ける、まさに作られた水槽みたいな、完璧な土地だった。<br />
<br />
彼がいつ、この場所を自分のものにしようと決めたのか、俺は知らない。鯉壱が自分のために池を整えたり、寝心地のいい原っぱを作ったり、水面に睡蓮を浮かべたりしたとは思えないが、少なくとも俺が初めてここへたどり着いた時、彼はすでにこの水槽の底の王様だった。<br />
<br />
マダラカガという生き物はトカゲに似ていて、警戒心が強く、身体中に毒を持っているかのような派手なマダラ模様をまとい、相手を威嚇する。多くのリヴリーと同じように、天敵のモンスターから逃げるため、長い尻尾を駆使してとてもすばやく逃げる。動きの俊敏さは他のリヴリーと比べてもダントツだ。モンスターは普通、こいつらを捕まえるのにとても苦労するので、普段は滅多に追いかけない。もっと捕まえやすくて、安全で、美味いリヴリーがたくさんいるからだ。ところが鯉壱は、少々警戒心の薄いマダラカガだった。今思えば、水槽育ちのせいだろう、彼は天敵であるモンスターがすぐ後ろに現れた時も、自分の温水プールみたいに池に両足をつっこんだままお昼寝していて、しかも、無防備なことに、腹を出したまま寝っ転がっていた。<br />
<br />
腹を出してひっくり返っている子供のマダラカガを見たら、モンスターはどうすべきか？　珍しいハロウィンの限定種だ。間抜けなやつだな、とっ捕まえて食っちまおうと思う奴も多いだろう。まぁ俺はむしろ、あっけにとられて固まったんだけど。<br />
<br />
「クッキーを食べたばっかりなんだ」と彼は本当に心底眠そうな声で俺にそう言うと、薄目で俺を見上げ、「僕、逃げたほうがいい？」と尋ねた。<br />
<br />
「お前いくつだ？」<br />
「５さい」<br />
<br />
身長１５０センチのマダラカガはヘラリと気の抜けた顔でそう言い、呆れる俺の顔を見て、ひゃはは、と追加で笑った。俺は今こいつにからかわれたのか？　その間抜けな笑顔にさらに攻撃する気が失せる。呆気にとられたというか、むしろ、危ないだろとモンスターの俺が注意したくなるような裏表のなさだ。子供なのかと思ったが、俺の質問に冗談で返すくらいの利発さもあるらしい。<br />
<br />
「俺のこと怖くないのか」<br />
「わかんない。だって僕、君のこと知らないもん。モンスターって、あんまり見たことないんだ。触覚があるから、スズメバチ？」<br />
<br />
馬鹿にされた気分の悪さから凄んでみたところで、目の前の少年に効果はない。彼は俺の頭をしげしげと眺めたあと独り言のように言った。腹ペコの時しか食べないでしょ？　水族館のサメみたいに&hellip;お腹が空いてる時しか&hellip;。やっぱり眠そうな声だ。危機感のない発想。あ、とようやく思いついたように彼は言い、俺を見る。<br />
<br />
「僕のこと食べる？　食べるつもりなら、頑張って逃げるよ」<br />
<br />
彼にとっては幸運なことに、俺は腹が減っているわけではなかった。そしてさらに幸運なことに、御察しの通り俺は無差別にリヴリーをぶっ殺して回るのが好きなタイプのスズメバチでもない。そういう派手好きなのもいるけど、俺はできれば悲鳴を聞くのも、血まみれになるのも、勘弁願いたい。なんだよ、思ったより相手を見てんのか？　<br />
ぼんやりと彼を眺めれば、派手な角と尻尾に目が止まる。水に浸かった尻尾のマダラ模様。確かにマダラカガだ。蛍光ピンクのド派手な色をしている。でも性格はアホみたいにゆるい。最初にも言ったがマダラカガっていうのは警戒心が強い生き物なので、何か音がするだけであたりを見回して、俺たちモンスターをそばに近づけることすらさせない奴も多い。いろんなリヴリーを捕まえてきた俺でさえ、こんなにじっくりマダラカガを見たことはない。角だの尻尾だのはツヤツヤしてるが、性格はナマケモノみたいだ。<br />
こいつ、頑張って逃げてもロクに走れないんじゃないか。だから余裕なフリをして興味を無くさせようとしてる。そこまで思ってから、俺は少年にもう一つ質問をした。<br />
<br />
「&hellip;マダラカガには毒があるって聞いてるけど、ほんと？」<br />
「あるよ」、と少年は即答した。そしてまた付け加える、「だから、食べちゃダメ」。<br />
<br />
そうか。俺はこのマダラカガに食べられたくないという気持ちがちゃんとあることを確認しつつ、それでも今の所は逃げるつもりが全くないのだとわかると、少しほっとしてその場に座った。アホみたいに寝転がってるリヴリーの横で、俺がアホみたいに突っ立ってるのも変だろ。<br />
<br />
座ると余計、彼の住んでいる世界が素晴らしいものに思えた。森の中に突然開けたこの小さな場所に降り注ぐ緩やかな太陽と心地よく通り抜けていく風。キラキラと光を反射する水面に、小さな睡蓮の花が浮いていた。センターサーバーにこんな場所があるなんて知らなかった。俺が彼より先にここを見つけていたとしても、秘密の場所として大切にするに違いない。<br />
マダラカガは相変わらず腹を出したまま寝転がり、気持ちよさそうに目をつぶっていた。俺がここにいることなんて関係ないみたいに、まるで気にしていなかった。<br />
<br />
「名前は？」<br />
「秘密。初めましての人には教えない」<br />
<br />
少年は俺を見ようともせずに、しかし真面目な声でそう言った。半端なところで警戒心出すやつだな。でもいい心がけだ。俺はあくまでモンスターなんだから、それぐらいしてもらわないと、俺が全く怖くないやつみたいになっちまう。2回目ならいいのか、と聞けば、少し考えてからマダラカガは答えた。「時と場合によるね」。<br />
<br />
「だってまだ、僕も名前知らない」<br />
「お前が教えないのに俺が今教えるのはフェアじゃないだろ。2回目だよ」<br />
「それもそうか&hellip;」<br />
<br />
怪訝な声を出す彼に笑って答えれば、マダラカガは納得したように唸った。少し間をあけて考え込んでから、空を見上げた少年は、観念したように言った。<br />
<br />
「また来るつもりなら&hellip;そのときもお腹いっぱいできてね」<br />
<br />
僕食べられたくないけど、逃げるのもめんどくさい。正直者のマダラカガはそう言って俺を見る。だから俺も大事なことを彼に伝えることにした。覚えておけよ、５歳のマダラカガちゃん。モンスターを見たら逃げろ。めんどくさくてもな。<br />
<br />
出しっ放しの腹をしまおうと、俺が彼の着ていたパーカーを横から引っ張ると、マダラカガは一瞬驚いたような顔をした。それから自分の腹を眺めて、「僕のお腹見た？」と怪訝な顔までしてみせる。<br />
<br />
「見せてたんだよお前が。それ見たら普通のモンスターがどう思うか考えろよな。マシュマロみたいな腹しやがって」<br />
「僕マシュマロは焼いたやつが好き」<br />
<br />
脈絡なく彼はそう言って、またひゃははと呑気に笑った。本当にやる気を削がれる笑い方だ。そうして笑いながら、寝転がったあたりの手の届く範囲の草をむしりはじめた少年を、俺はどうしてやるべきだろう。お前一人か？　ここで何してる？　俺が食わなくても、そんなんじゃすぐ他のモンスターに食われちまうぞ。言いたいことはたくさんあったが、口から出てきたのはため息だけだった。何言ったって無駄そうだなと、心のどこかで俺はもう気づいていたのだ。今思えばね。だから俺はミルクティー色の髪を見下ろしながら言った。<br />
<br />
「一つ教えといてやる、モンスターもリヴリーの好き嫌いをするんだ」<br />
「マダラカガ嫌いなの？」<br />
「毒があるんだろ、そう言ったじゃんか。毒があるやつは食べないよ」<br />
「そっか、そうだった」<br />
<br />
俺の言葉に、思い出したように少年は繰り返した。「そっかそっか」。安心したのか彼はまた瞼を閉じて、鼻先をくすぐる風を吸い込むように深呼吸した。<br />
<br />
「はあ、毒があってよかった」<br />
<br />
なぜか満足げに呟く彼に、今度はつられて俺も笑うしかない。<br />
<br />
「そうだな。毒があってよかったな」<br />
<br />
繰り返された俺の言葉に、今度は鯉壱は笑わなかった。なぜならもう彼はそのときにはすでに眠りに落ちていて、すやすや寝息を立て始めたからだ。信じられねえなって呆れたのを覚えてるよ。それから、可愛いなって思ったのもこれが最初だ。だから俺は少しだけ彼のそばにいて、それからもう一度改めて水槽の底に来ることにした。それが鯉壱と俺の最初の出会い。俺たちが言葉を交わした最初の日で、今思えばたぶん、鯉壱が最初に緑露の目を盗んでクッキーを動けなくなるまでたらふく食べた日だ。この日以来鯉壱がクッキーの量を制限されたと聞いたのは、ずっとずっと後になってからだった。]]> 
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    <published>2019-01-14T06:26:17+09:00</published> 
    <updated>2019-01-14T06:26:17+09:00</updated> 
    <category term="LIVLY" label="LIVLY" />
    <title>朝</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[眠る猫を眺めているときの幸せを思い浮かべてください。目を閉じて、小さく寝息を立て、くるくるした毛が息をするごとに上下する。手や足に触るとあたたかい。嫌がるかもしれない、と思いながらそっと顔を埋めれば、やわらかないい匂いがする。<br />
<br />
朝目が覚めると、そういう幸せが隣で寝ている。大きい猫だ。緑色の頭をくしゃくしゃにして、目を閉じている。猫みたいな彼は、昨日夜遅く帰ってきて、すっかり眠っていたエマの布団をわざわざ剥いで彼女を起こし、文句を言う彼女の声を聞きながらその隣に倒れこむと、気絶したように眠った。エマはビビった。嫌がらせに不信感を覚えたわけではない。フリッカという男は、日常的にこういう嫌がらせを彼女にするのだ。彼女が不安になった理由は、フリッカが珍しくばったり倒れて眠ったことだ。正義感の強いエマは、はじめこそ文句を言おうと彼の背中を揺すった。だが反応はない。耳を寄せると熊みたいにぐうぐう寝ていた。壁にかかった時計はもう午前４時を指している。どこで何をしていたのかはわからないが、覗き込んだ顔色はそんなにひどくない。エマの方も彼の帰りが遅いので、普段より頑張って遅くまで起きていたのだ。でも規則正しい生活リズムの中で生きる健康優良児の彼女にとって夜更かしは難しい試練だった。そのせいで彼女はひどく眠たかったが、とにかく、彼が自分のベッドへちゃんと戻ってきたので、怒りを鎮めておかえりと言ってやった。それから夜が明けて、朝になって、エマはもう一度目を覚ました。<br />
<br />
タイマーで電源が入るようになっているTVから、災害のニュースが聞こえていた。昨日の夜、地震があったらしい。エマが寝ていた間だ。フリッカはどこかで帰れなくなってたのかもしれない。エマが目覚めたのに気づいているのかいないのか、大きな背中がもぞもぞ動く。寝返りを打って仰向けになったフリッカの顔をエマは息を潜めて見つめた。フリッカは大柄な男なので、寝ぼけた彼に力任せに抱きしめられたり、重たい腕を胸の上に投げ出されるとエマはすぐ苦しくなる。それで済むならまだいいが、不意に触ると力任せに投げ飛ばされる時もある。だから本当はさっさとその場を離れた方が良かったのに、エマは彼が動くんじゃないかと警戒しつつもそのまま隣に居続けた。夜の間は暗く真っ黒に見えた髪も、朝の青白い光に照らされて深緑色を反射している。眠ったフリッカはかわいい、とエマは思う。ベビーフェイスというやつ。女の子みたいな顔をしている。と、本人に言ったら殴り飛ばされるだろうが。<br />
<br />
「赤ちゃん」<br />
<br />
ぽろりと転げ出てしまった言葉に気づいて、慌てて口を結んだ。<br />
彼の腕は、エマが恐れた瞬間に動いた。でもそれは彼女の胸の上ではなく、エマの手のひらに重ねられて、彼女の腕を握った。そしてそのまま、止まった。<br />
<br />
「エマ」<br />
<br />
と、フリッカが口を開いた。朝に弱い彼は、今日に限って何かモゴモゴ喋っていた。エマはフリッカの腕をぎゅうと握りなおして、なあに、と返事をした。たぶん、フリッカは何も答えないと思う。寝ぼけているだけだ。返事が来なければいいなと思った。このまましばらく手を繋ぐだけの時間が過ぎてもいい。重ねた手があたたかい。でかい猫じゃなくて、でかい赤ちゃんだな、とエマは思い直す。そうか。図体ばかりでかいけど、きっと、俺はこいつが心配なのだ。子供じみたこの男が、傷ついたり悲しんだりするのが嫌なのだ。二度寝をしようかな、とエマは思った。乱暴者の彼が起きたら、こんな風に隣で、のんびり寝てはいられなくなるのだから。]]> 
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    <id>wardeat.blog.shinobi.jp://entry/350</id>
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    <published>2018-09-20T07:35:04+09:00</published> 
    <updated>2018-09-20T07:35:04+09:00</updated> 
    <category term="LIVLY" label="LIVLY" />
    <title>猫1匹分の居場所/フリエマ</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[エマが拾って来た子猫が死んだ夜、普段は強気なエマが珍しく涙目で俺にせがんだのは、「そばにいて」という端的かつ単純なことだった。彼女はいつもと同じように歯を磨き、服を着替えて、おとなしく、ただ淡々と眠るための支度をしていたが、言葉は少なく、表情はなく、ただ毎晩繰り返していることをその日も繰り返しているようだった。エマはベッドに潜り込むなり今日自分の手のひらの中で死んでいった生き物のために涙を流し、俺はただそれを隣で眺めていた。TEPDにいる間に死体なんぞ嫌という程見てきただろう彼女が、それでも声を押し殺し、しゃくり上げるように泣いていた。白い布団に埋まったエマの小さな体がひっく、と揺れるたび、彼女の柔らかなサーモンピンクの髪が崩れて溢れる。その夜俺は、エマが泣くのをずっと隣で眺めていた。<br />
<br />
<br />
<br />
＊＊＊<br />
<br />
<br />
<br />
　彼女が猫を拾ってきたのは三日前だ。来る途中、家のすぐそばに捨てられてたんだと、遅めの昼食を膝の上に広げながらエマは深刻そうに告げた。俺は顔をしかめてエマを見る。猫が心配だったからじゃねえし、迷わず職場にまで連れてきたエマの心の広さに感動したわけでもない。仕事の合間にやっと広げられたエマの手製の弁当の中身が、今日も昨日も一昨日も、同じおかずだったからだ。エマの足元で卵焼きを突っついているやせ細った子猫にそれほど興味はない。俺の興味の中心はエマだけだ。一人暮らしで自炊してるだけ偉いもんだが、俺に言わせりゃ猫の心配なんかしてないで、お前自身が栄養のあるものをちゃんと食べるほうがいい。<br />
<br />
「猫なんか拾ってる余裕あんのか？　食費がどうのって言ってたくせに」<br />
<br />
　いつまでもチビのままだぞ、と嘲笑気味に吐き捨てれば、うるさい、と睨まれる。<br />
「フリッカはろくでなしだから、言うこと聞かなくていいからね」<br />
　エマの優しげな声に、猫がニャア、と返事をする。何もわかってないくせに。と俺はぼんやり思う。<br />
<br />
　空に迫るほどの高層ビルが乱立し、何百万人もの人間が行ったり来たりを繰り返すこのディオーカーズ地区に、小さな子猫が一匹、ひっそりと紛れ込み、生きるだけのスペースはいくらでもある。隣を歩く人間がどんな人物であるかさえ気にしないのがこの街のいいところだ。それがわかっているから俺は今日ものんびりエマとゆるくて平和なランチを楽しんでいられる。俺は座り込んでいた階段から腰を上げ、ビル群の向こうに広がる3rdサーバーの街を見下ろした。人々は、この街の安全を守る自警組織であるTEPD本部の屋上で、一人手製の弁当を食べる小さな少女に決して気づかない。だから、当然、指名手配犯が自警組織の人間と一緒に本部の屋上でのんきに昼飯食ってるなんて天地がひっくり返っても思わない。俺をこのくだらない世界からたった一人で見つけ出したのは彼女だ。誰も気にも留めない、小さなゴミクズ同然の生き物を拾うのが、きっとエマの趣味なのだ。<br />
<br />
　足元にじゃれつく子猫を優しく撫でながら、エマは卵焼きをもう一つ足元に落とした。慈愛に満ちた目で、まるで幼い妹か子供を見るような目で、灰色の汚れた猫を撫でる。その指に、迷いはない。<br />
<br />
「俺がちゃんとお世話してあげる」<br />
「&hellip;生き物なんか、軽い気持ちで助けるもんじゃない」<br />
<br />
　微笑み、安心させるようにそっと告げる、まるで宣誓のようなエマの独り言に、いじらしささえ覚える。だが、微笑ましいとは思わない。つい口からこぼれた蔑むような声色に、敏感なエマはすぐさま眉間にしわを寄せた。<br />
<br />
「なんで。悪いことみたいに言うな」<br />
<br />
　エマは俺を怪訝そうに見ながら、そうして手元ではまた最後の卵焼きのかけらをすんなり猫に与えた。なんだかそれが、そんなことが、ただただ俺をイラつかせた。なんでだと？　心の中で唸る。んなことはどうだっていい。俺はお前のために言ってやってるんだ。<br />
<br />
「名前つけないとな」<br />
「やめろって」<br />
「なんだ、俺がこの子に構うからさみしいのか？嫉妬してるのか」<br />
<br />
　ありきたりな台詞を吐いてみせて、にやにやとエマは笑う。笑うエマが可愛い。猫に嫉妬するなんて、お前可愛いとこあるな！なんて、ほざいて見せるエマが可愛い。だから俺はエマに言った。「そいつはお前には助けられねえっつってんだよ」。俺の声を聞くなり、エマは俺を睨んだ。猫に向けていた視線を引き剥がすように俺の方へ向けた。それから噛みつくような口調で吠える、「なんだって？」<br />
<br />
「さっきからなんだよ。俺には無理だって言いたいのか？」<br />
「そうだ。きっと不幸にする」<br />
「そんなことない」<br />
<br />
　俺の言葉を遮るように、食い気味に、はっきりとエマはそう言った。彼女は俺に負けないくらい短気だ。「お前なんかには無理だ」って言葉が、世界で一番嫌いだ。俺が言えば頭に血がのぼるのはわかっていた。エマは怯むこともなく俺を睨み、膝の上の弁当箱をどかし、猫にも構わずいきなり立ち上がるとズカズカ俺のそばへやってきて、小さな姿で、それでも強気な態度で、俺を牽制するように言った。<br />
<br />
「フリッカ。俺を惑わすな。俺は正しいことをしたいんだ」<br />
<br />
　俺は彼女の瞳を見つめる。赤い瞳の奥に揺らぐ、強い意志。<br />
　正しいことか。正しいこと。俺は頭の中で繰り返す。そうか。お前は正義のヒーロー。正しいことを正しく行うのだ。善を信じ、弱きを助ける。そのためにどんな代償が必要かなんて考えもしない。何を犠牲にするかを、選びもしない。<br />
<br />
「クソ生意気に」<br />
<br />
　俺が吐いた途端、エマはただの子供に戻った。俺が彼女の腕をひっつかんで、その小さな体をコンクリートの壁に思い切り押し付けたからだ。エマの背中を受け止めた壁はドンと大げさな音を立て、猫は驚いて飛び跳ねた。<br />
<br />
「正しいことなんかこの世に一つもない。お前がお前のエゴで勝手に正義を振りかざしてるだけだ」<br />
「お、お前なんかに言われたくない」<br />
「俺を見ても、まだこの世に正義があるって思うのか？」<br />
<br />
　俺の言葉に、エマは目を細めた。首元に入った俺の腕を抑えながら、エマはなお文句を言おうと口を開き、俺はますますイラ立ってエマの顎を掴む。<br />
<br />
「こんなの連れて帰ったところで良いことになんかならない。お前が満足に浸るだけだろ。どうせならその猫だってお前以外の奴に拾われた方がマシだって思わねェか？　俺が言ってんのはそういう話だ。自分の力量も、状況さえ、判別がつかねえくせに。お前見てるとイライラすんだよ」<br />
「うるさい！」<br />
<br />
　子供のくせに、と咄嗟に口について出そうになったとき、エマの右足の蹴りが俺の体に当たった。痛くなんかない。だけど怯んだ。自分が言おうとした言葉が、エマに伝わったと思ったからだ。怯んだせいでエマを掴んでいた手から力が抜けて、エマの体は壁を重力に沿って落ちた。そこで初めて俺は自分の息が上がっていることに気づいた。落っこちたエマが立とうとして、我に返った俺はそれを手伝おうと手を出した。しかしエマはぱちんとそれを払いのけ、悔しそうにただ唸った。<br />
<br />
「うるさいんだよ。お前はいちいち」<br />
<br />
　エマは顔をあげなかった。彼女を見下ろしたまま、俺も動けないでいた。エマは怒っていた。そんなの、顔を見なくたってわかった。屋上に風が吹いて、エマは不機嫌な態度を隠そうともせずに舌打ちをする。<br />
<br />
「しらねーよ。俺が絶対幸せにする。決めたんだ」<br />
<br />
　騒動の一部始終を離れたところから見ていた灰色の猫が、どこからかニャア、と短く鳴いた。<br />
<br />
<br />
<br />
＊＊＊<br />
<br />
<br />
<br />
　頑固なエマは猫を連れて帰った。絶対に幸せにすると心に決めて。仕事が終わったその足で餌を買ったりおもちゃを買ったりして、小さな生き物を喜ばせようと奮闘した。風呂に入れて綺麗にして、撫でて抱きしめて頬ずりしてやった。エマはこの猫を大事にして、愛情をたっぷり注いだ。全てこの猫を幸せにするためで、自分にはそれができると証明するためだった。しかしそれからすぐのことだ。子猫がぱたりと、突然死んだのは。<br />
<br />
　俺が彼女の部屋に行った時、もう猫はぐったりと動かなくなっていた。何があったのかは知らないが、エマはソファに座って、その膝に猫を抱き、目に涙をいっぱい貯めて、それでもなお、それをこぼさないように我慢していた。「エマ」、と彼女に呼びかけても、彼女は微動だにしない。俺はソファに座る彼女の前へしゃがんだ。猫は眠るように瞼を閉じていて、俺にはそれが死んでるのかどうかもよくわからなかった。<br />
<br />
「わかってたの？」<br />
<br />
消えそうな声でエマが言う。<br />
<br />
「何を」<br />
「死んじゃうって」<br />
<br />
　なるべく落ち着いた声を出せば、エマはゆっくりと声を押し殺すように続けた。俺はただ深く息を吐いて、彼女の膝の上に横たわる小さな猫を見つめ続けた。<br />
<br />
「知らねえよ」<br />
<br />
　少しの間沈黙が続いた。エマが俺の嘘に気づいたかどうかはわからない。だけど俺の方が先にその沈黙に耐えきれなくなって、半ば無理やり口を開いた。<br />
<br />
「お前はどうだ。わかってたんじゃねえのか。このままじゃ死ぬって、そう思ったから連れてきたんだろ」<br />
「信じないと」<br />
<br />
　エマの声が揺れて、猫の上に雫が落ちた。俺は耐えきれずに彼女の顔を見上げた。エマはその瞳から涙をこぼして、いつも俺に文句を言う時みたいに眉を歪ませて、しゃくりあげながら言った。<br />
<br />
「信じたいんだ。自分の決断を。正しかったって。間違ってるのかもしれないけど、でも、信じたいんだよ」<br />
<br />
　堰を切ったように、エマの小さな体が震えて、涙が溢れてくる。俺はたまらなくなって、泣き出すエマの顔を見つめた。泣くなよといつものように言いたかったが、それもできなかった。エマはこの猫が死ぬのをわかっていた。それでもここに連れてきた。そうだと思った。エマはそういう人間だ。自分が正しいと思ったことを信じるのだ。周りがなんと言おうと関係ない。それが正しいか正しくないかすら関係ない。だからこそエマは、世界でたった一人、この俺を見つけ出した。救うべきだと信じて、俺を追いかけてきたのだ。<br />
<br />
「ねえ、フリッカ」<br />
<br />
　しゃくりあげながら、彼女は俺を呼ぶ。それがどういうことか、考えもしないで。俺は彼女の声が愛しいと思う。彼女のかすれる声が、伸ばされる指が、彼女の涙が、どうしようもなく不器用で、一途な彼女のことが、俺はどうしようもなく、好きだと思ってしまうのに。<br />
<br />
「いっしょにいて」<br />
<br />
　あァ、エマ。言ってもお前はわからねェだろうな。俺は喉まで出かかった言葉の代わりに手を伸ばして、彼女の頰を撫でた。失くすくらいなら最初から求めなければよかったって、お前は思わない人間だ。そんなことを考えもしない。一緒にいることを選んで、その代償が何かも考えないで、安易に手を伸ばして、笑って抱きしめるだけだ。だったら、エマ、俺が死んでもそんな風に泣いてくれるか。俺がこの世界からいなくなっても、お前だけは、俺のために泣いてくれるって、信じてもいいか。お前があの小さい猫に与えた世界を、その正しさを、俺も、一緒に信じていいのか。お前の隣に、俺は、いてもいいのか。<br />
<br />
「いるよ」<br />
<br />
　俺は正しさなんか知らねえけど、でも、お前がそれを望むんだったら。俺は俺のエゴで、ここにいるよ。<br />
　掠れた声で答えれば、エマは俺の手に擦り寄るように頭をくっつけた。手のひらですっぽり隠れそうな柔らかいその頰をそっと撫でれば、そこは通ったばかりの雫で濡れていた。たった一匹の小さな猫のために、エマはその夜、一晩中泣いた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<span class="memo">猫1匹分の居場所</span><br />
<br />
<br />
]]> 
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    <published>2018-06-08T03:08:27+09:00</published> 
    <updated>2018-06-08T03:08:27+09:00</updated> 
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    <title>お肉屋さん</title>
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      <![CDATA[<div><strong>モンスターのご飯について<br />
<br />
</strong>　モンスターはリヴリーを食べます。共食いすることもあるけど、基本的によくない行為とされている。ただ、モンスターにも種類によっては美味しいといわれている種類や、食べると長寿になると言われている種類や、リヴリーとのハーフで、個体差によって美味しい奴とかもいる。<br />
<br />
<strong>お肉屋さんについて<br />
</strong><br />
　サーバーにはそれぞれモンスターのご飯事情があります。モンスターも種族によって、なんでもパクパク食べる奴もいればその辺のリヴリー 食べたくない奴もいる。そしてリヴリーから見たら勝手に通行人を食べられるのは困る。そこで、モンスター専用の「ストア」を用意するサーバーがあらわれはじめました。そういうののまとめ。ここでいう「お肉」は、基本的にリヴリーのこと。</div><br /><br /><a href="http://wardeat.blog.shinobi.jp/Entry/346/" target="_blank">読んでみる？</a>]]> 
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    <published>2017-08-27T21:26:57+09:00</published> 
    <updated>2017-08-27T21:26:57+09:00</updated> 
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    <title>THE DOOR #2</title>
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      <![CDATA[どんどん歩いて廊下を抜けていくと、白くて大きい部屋に出た。<br /><br /><a href="http://wardeat.blog.shinobi.jp/Entry/343/" target="_blank">読んでみる？</a>]]> 
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    <published>2017-08-27T21:25:28+09:00</published> 
    <updated>2017-08-27T21:25:28+09:00</updated> 
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    <title>THE DOOR #1</title>
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      <![CDATA[目を話した隙にゾッドがいなくなった。<br /><br /><a href="http://wardeat.blog.shinobi.jp/Entry/342/" target="_blank">読んでみる？</a>]]> 
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    <published>2017-04-23T19:16:49+09:00</published> 
    <updated>2017-04-23T19:16:49+09:00</updated> 
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    <title>ブルーベリー・ナイツ</title>
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      <![CDATA[最近良く思うのは、蜂散さんがやけに明るいっていうことだ。春になり、天気もぽかぽかしてくるようになると、蜂散さんは前より頻繁にここへ姿を表すようになってきた。彼に会えるということが、正直単純に嬉しい。<br /><br /><a href="http://wardeat.blog.shinobi.jp/Entry/340/" target="_blank">読んでみる？</a>]]> 
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