和ちゃん宅のビィちゃんお借りしました
ねーえ、と甘ったるい声がして、ぼんやりする視界で赤色が揺れる。
頭が痛いから、返事は声とも呼べないようなうなり声だけだったけど、彼女は満足そうに俺の頬を突っついて、にこりと微笑んだ。
「ハチコちゃーん」
「んー」
「おねむですかー?」
窓からはもう朝日が入って、白く素っ気ないカーテンが揺れている。
重いまぶたを無理矢理ぱちぱちやると、ぼやける視界が徐々に鮮明になってきた。
白い天井、遮る赤。にんまり笑う彼女の顔。
ああ、勘弁してくれ。君の赤色は今の俺の目には刺激が強すぎる。
「ねえねえ、あたしお腹空いちゃったな」
甘えるようにそういって、彼女は目をこする俺の手に無理矢理自分の手を絡めた。
なにが、と開きかけた口に滑り込んでくるのは、これまた甘ったるいキス。
寝起きは弱いと彼女にはなんどもなんども言ってるはずなのに、彼女は相変わらずマイペースというか、自分に正直だ。
彼女がようやく俺を解放してから、やっと俺は目の焦点が合うようになった。
俺の胸の上にまたがって、笑っているのは、あああ、まじか、ビィ、まじかよ。
「お前、そのかっこ」
「ハチコちゃんはロリコンだからこっちのほうが好きでしょー」
言うなりまた小さなキスが降ってきて、俺は慌てて彼女のキスを手で遮った。
彼女は不満そうに一瞬顔を曇らせたけど、まあいいかといわんばかりにそのまま俺の掌にキスを落とす。
俺が昨日の夜一緒にここまで連れてきた女は、確かに20代の女性だった。
それが今俺の上にちょこんと座って、にまにま笑っているのは、10歳にも見えないような小さな子供。
「昨日の夜は"ちゃんと"大人だったよな?」
「ビィちゃんは永遠の女の子だよー?」
ふざけた声に溜息が出る。
彼女は容姿を変えられる。彼女と初めて出会ったときも、朝になってから俺は隣で眠る少女の姿を見て失神しかけた。その衝撃の事実を知るまで俺は、転を笑えねえ立場だと本気で焦ったのだ。
ハチコちゃん可愛いねえ、と彼女は笑って、吐きそうな俺の前であれが幻じゃなかったことを証明してみせた。
それ以来俺はこの女の小さな姿にも慣れようと努力はしているのだが、それでも寝起きのどっきりは心臓に悪い。転ならまだしも、俺はロリコンじゃない。
「ビビるからやめてくれって言ったろ」
口から滑り出た声は、思ったより不甲斐なくて、ますます情けない気持ちになる。
のそりと起き上がれば上にのっていたビィは楽しそうに奇声を上げて転がっていき、俺はそれを横目で見ながらベッドの上であぐらをかいた。
ぐちゃぐちゃになったシーツと毛布の間でもごもごうごいていたビィが、ぴょこんと小さな頭を覗かせる。
「ハチルちゃんが実は小さい女の子好きなの、あたし知ってるよお」
「俺もビィちゃんがほんとは二十歳すぎで、しかもモンスター顔負けの肉食系女子だって知ってるー」
鼻で笑ってそう言い返せば、彼女がケラケラ笑う声が聞こえた。何が楽しいんだか、正直俺には彼女のツボが分からない。ただ彼女の笑う声がキンキン俺の頭に響いて、耳を塞いでしまいたくなる。
「あらあー、ほんとはこっちが本当のビィちゃんかも知れないよ?」
言われて、ぎょっとする。
彼女はいつのまにかまた俺の上に這い上がってきていて、ちょうど俺の膝の中にちょこんと陣取っていた。そこへ俺に背を向けるようにして座って、その小さな手で俺の腕を掴むと、自分を抱きしめるように俺の腕をかき寄せる。小さな彼女は、俺の腕の中にきもちいいほどすっぽり収まった。
今この手の中にあるものが、昨日俺が抱いた女と同じいきものなのだということは、寝起きの俺にはまだちょっとうまく飲み込めない。頭で分かっていても、感覚が拒否するのだ。だってそうじゃないか。現に全く違う生き物だ。
「あたしが子供だったら、ハチルちゃんはあたしのこと抱かなかった?」
俺の腕の中で、その生き物は言う。俺にしっかり抱きしめられておきながら、彼女は俺に聞く。
意地の悪い女だと思った。でも同時に、とても賢い女だなとも思った。
「抱っこぐらいはしたかもな」
ちゅ、と、小さな音とともに俺の首につけられるキスのあと。それは彼女が大人である証拠。見下ろせば、俺の腕の中で彼女が微笑んでいる。そっと両腕を伸ばされて、首に抱きつかれるようにしてまた口付けは交わされる。このしつこいぐらいのキスも、大人の女の証じゃないかとおもう。キスなんかで誰かをつなぎ止めようとするのは、大人の女がすることだ。
俺がベッドを出ると、彼女は不満そうに唸って文句を言った。
仕方ないので俺はお腹をすかせた彼女のためにパンケーキを焼く。
腹を空かせた女は厄介だ。とりあえず甘いものを与えておけば、あとはたいてい大丈夫。
これは相手が女なら子供にも大人にも効く最良の作戦だ。
彼女の小さい手で腰にしがみつかれながら、日曜日のパパっていうのはこういうもんかなと、俺はようやくはっきりしてきた頭で、ガラにもなくぼんやり思うのだった。
0722にベッドの中で
(130626) 和ちゃん宅ビィちゃんお借りしました! 幼ビィちゃんに誘惑されたい