招待状は、全部で5つあった。
緑露ちゃんの分と、シシーの分、エマちゃんの分、それから残り二枚。
本当はもう一枚あったけど、Daddyは「ヴィレッタはお化けだしパーティーにはいけないんだ」といって礼儀正しくお誘いを断った。Daddyは来ないの?と僕は食い下がったけれど、彼は眉毛を下げて僕を見つめたあと、申し訳無さそうに微笑んで、「ダンスは苦手で」と短く言っただけだった。そんなわけない。Daddyはダンスだけじゃなく、何もかもスマートに、完ぺきにこなす人だ。でも彼が悲しそうだったから、ムリに誘うのはやめた。僕は来て欲しかったけど、改めて考えてみるとパーティーに来てはしゃいでるDaddyなんて想像できなかったし、それに彼はきっと流れ星の下でダンスをするよりも、星を見上げてその光を心の奥にとっておきたいと思ったり、そのまま目を閉じて願い事を考えながら眠りについたりする方がずっと好きだろう。
今度はお茶のお誘いをしに来るよ、とDaddyにそう言って、僕は彼のお店を出た。外に出ると、おひさまの光が眩しかった。Daddyの帽子屋さんは丘の上にあって、そこから小さくファーストサーバーの町並みが見渡せる。夜になれば星だって綺麗に見える。だけど丘の上の特等席で輝く星を眺めるDaddyは、その輝きだけを愛でていられる人だ。ダンスもお菓子も、なんて欲張ったりしない。…僕は欲張るけど。
目の前に広がる気持ちのいい景色と夏の風に、僕はため息をついた。招待状が無駄になっちゃったからだ。
せっかくお星さまをピンクで塗ったのにな。僕は黒いクレヨンの空に浮かぶピンクや黄色の星々を悩ましく眺めた。ピンクの星。流れ星の夜まで、あんまり時間がない。誰か僕のパーティーに来てくれそうな人は…。
「あ」
僕の頭に、ふっと現れた姿。流れ星の降る夜に、男の子を誘いたがっている女の子。ピンクの星。僕は嬉しくなって顔を上げ、それから急いで招待状に名前を書いた。それから内容が書いてある方を内側に、丁寧に折って、紙飛行機にした。宛名が書かれた所が羽のところに来るようにね。じゃないと僕からの手紙だって分からないかも知れない。
空の雲に狙いをつけて勢い良く飛ばせば、風にのってくるりと一瞬弧を描いたお手紙は、ふわふわと雲を目指して上がっていく。これで準備はオッケー。あとは勝手に手紙が届け先を探してくれる。不思議だけど、紙飛行機はいつもちゃんと相手のところに届くんだ。
僕は走って丘を下り、街へ降りる。青い空に、夏の雲がかかっている。残りの招待状は二枚。僕は招待状を入れたかばんを振り回しながら丘を駆け下りて、素敵な風が吹く、ファーストサーバーを出た。