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2025/01/15(Wed)
ADMIN
叩き込んだ蹴りのエフェクトで画面が少し揺れた。
唸るような叫び声を上げて倒れ込んだモンスターが、黒く霞んで消えていく。
拳を構えた体勢はそのままに、ちらりと視線を右に投げれば、鮮やかな青がにこりと笑うのが見えた。
「カッコいい〜」

銃剣を手にしたお調子者の軽い声が耳に届いて、私は緩やかなため息をひとつ。
彼に任せたハズの二体のモンスターはまだまだ元気いっぱいに派手な効果音を鳴らしながら雄叫びを上げているから、私はじとりとクーンを睨んだ。

「ふざけてないで、まだ残ってるじゃない」
「俺はサポートのほうが得意なの」

口角を持ち上げながらいたずらっぽくそう言う彼と、背中合わせにモンスターを見上げる。
ちらりと見上げたダメージゲージはほぼ減っていないと言い切ってもいいレベル。何がサポートよ。

「あんた何やってたのよ」

呆れた声で言いながら目の前のモンスターに殴り掛かって次々にコンボをたたき出せば、背中からまた軽い声が響く、だあってパイに見惚れてたんだもん。
甘ったれた声が耳に届くなり、クーンから見えないのをいいことに私は思い切り眉をひそめた。
そのセリフ、私以外の何人に言ってきたのよ。まず最初にそんな風に思ってしまう私って、イヤな女かしら。
ぱあっと明るいエフェクトが目の前で光って、倒れ込むモンスターもそのままにぱっと振り向けば、クーンが私を見つめてにこりと笑った。

「ほーらやっつけた。俺たちって相性抜群♪」

モニターの向こうで思わず呆れ顔を晒した私だったけれど、彼は全く意に介さない様子でにこやかなその笑顔を崩そうともしない。
おこちゃまね。そう口に出すのは簡単だったけれど、簡単だったけれど言わなかった。
気付けばクーンはすぐ側にいて、パイ、だなんてひどく優しい声を出してみせるから、何よ、何よ、私は意味もなくイラついてしまう。

「まだ一匹残ってる」

突き放すように吐き捨てて、逃げようと背中を向けるモンスターに掌底を叩き込む。
悲鳴を上げるモンスターにこれでもかと打撃の雨を降らせる私って、やっぱり、イヤな女かもしれない。
止めとばかりに思い切り振り下ろそうと上げた足が地面につく前に、視界に飛び込んだのは鮮やかな青。
ぐい、と腕を引っ張られて、真正面に彼の顔が映り込む。
どきり、と心臓がおかしな音を立てたのは、きっと、急に視界が切り替わったせい、だ。

「俺にもカッコいい見せ場、残しといてよ」

目の前で微笑むクーンの笑顔にイラつかないわけじゃないけれど、視界の右端で青いエフェクトともに消えたモンスターの手前、私は仕方なくため息をつくだけにしておいた。
見上げた先で、鮮やかすぎる青が揺れる。

「今の俺、カッコよかった?」

いたずらっぽく笑う瞳。屈託なく持ち上げられる口角。
ゆるゆると溶けるように消えていくバトルエリアの中で、つられて私までふっと笑ってしまう。

バカね。
そんなこと言われたら、カッコいいだなんて言えるわけないでしょう。





ほんとにおこちゃまなんだから


2013/06/23(Sun)
ADMIN