「ちゅうしてもいい」
「ヤダよ気色悪ィ」
あたしが投げかけた言葉は彼の耳に届くなり嘲笑でもってたたき落とされた。
ストレートに拒否されたぐらいで砕けてしまうような軟弱な乙女心は持ち合わせちゃいないけど、
でも、それでもあたしだって女の子なのだから傷つくことは傷つくのだ、立派な女の子の証だ。
あたしは泣いてしまいそうになりながらそれでも無理矢理笑顔を作った、そうして彼の視界に入ろうとしたんだ。
でも彼はあっさり視線を手元のグラスに落として、キレイな色のお酒を少しだけ口にして、
あたしは彼に口付けられて飲み干されるその液体になってしまいたいだなんてずいぶん自分勝手な妄想を軽い頭の中に巡らせてる。
「ずるいなあ」
ぽつりとつい唇から滑り出てしまった言葉に、あたしは自分でぎょっとして、慌ててグラスに口をつけた。
もちろんあたしのはただのお水だ、無色透明で冷たい氷入り。それでも十分キレイなことは間違いない、液体だ。
あたしがぐびぐびお水を飲みこんでいるのを細目で眺めてから、彼は何も言わずに黙ってグラスを傾けた。
何に対してのずるいだったんだろう。あたしは自分でいっておいて、ため息をつきたくなる。
彼に愛される液体か。それともあたしの恋心に気付いていながらあたしをもてあそぶこの男の性格か。
グラスはあっという間に空っぽになって、あたしは口に付けるものすらなくなって、ただ唇をきゅっと結んだ。
「俺、あんたのこと好きになれないな」
嫌いでもないけど、好きでもないよ。
不意に口を開いた彼の低い声が、あたしの耳に心地よすぎるぐらい心地よく響く。
あたしの頭にわんわんと酷く優しく反響して、おかしくなっちゃいそうだった。
それで漸くあたしは悟る、ああ、ああ、ずるいのは、
ずるいのはあたしだ。
大好きな人の隣に座って、視線を集めて、他愛無い言葉を交わして、
それでもう十分なはずなのに欲を出して、貪欲に彼に愛を求めてしまうあたしだ。
彼は何も言わずに側にいてくれてるって言うのに、あたしは、
あたしはずるい女だ。
相変わらず彼がグラスを見つめるばかりで隣に座るあたしを見ていないことを知りながら、
両手で握りしめた空っぽのグラスに冷たい氷しかはいっていないことを知りながら、
あたしは乱暴にそのコップを自分の唇に押し付けた。
乙女心につけられた傷の痛みは冷たい氷が歯に当たる感じと似ているかもしれないなと、
あたしは冷たい氷の味もよく分からないまま、思った。