愛がどんなものだったか、正直俺にはよく分からなくなっていた。
「もっと、もっとだして、奥に、孕ませてよ。あたしのこと好きでしょ、愛してるんでしょ。頂戴、愛してるって証拠。ほら、出してよ。あたしのことだけ考えて。ハチル、ほらこっちみて。愛してるでしょ、愛してるでしょあたしのこと。お願いだから、言って、言ってよ。愛してるって言って、ハチルでいっぱいにして、あたしのこと、もっともっと、あいして、」
「クイン…っ、」
泣き出しそうな彼女の頬を捕らえて、喚き立てる彼女の言葉を遮った。
興奮のあまりまっさおになった彼女の白い肌に、ぱさり、と金色の髪が落ちる。
「黙って」
乾いた口で絞り出した声は掠れていた。そう言ってもなお口を開きかけた彼女の唇を、俺はかっとなって乱暴に塞ぐ。
そこまでいうなら、孕め、孕めよ。君が望むことなら俺は何だってする。
愛すよ、君を、これでもかってぐらい愛してあげるよ。
君が優しさじゃなく乱暴さを求めるなら、俺はその通りにするよ。
思い切り叩き付けた腰が、愛の証拠かどうかなんて、そんなこと俺は知らない。
ベッドのスプリングがうるさくギシギシと喚いても、耳になんて全く入らない。
俺に聞こえるのは、相変わらずしつこくしつこくクインが俺を呼ぶ声と、俺自身の荒い息だけ。
俺は君が望むままに与えるよ。君が生んだこの凶暴な愛を、俺は愛すよ。
すがりつくようなキスも、離れまいと必死に俺の背中に食い込む彼女の爪も、
可愛くなんてない、好きなんかじゃない、ただ重たい、重たくて鋭くていたい、ひたすらに痛かった。
だから俺たちは、そこにお互いがいるって確認する。
強く深く傷つけて、えぐられた傷跡をみるたびに、俺たちは、どれだけ愛されているか思い知る。
流した血の量が多ければ多いほど、俺たちは強くお互いを思い出す。
そうして俺たちは血なまぐさいこの行動が、脳裏に焼き付けられるような愛だって知る。
脳の奥がチカチカと激しく揺さぶられるようなその強引な感情を、俺は、愛してしまっているのだ。
いたい、つらい、くるしいと喚き立てながらも、それでも、結局のところは。
激しく、暴力的なまでの時間だった。痛みは気にならなかったし、クインも同じようだった。
血まみれのベッドで、横たわるのは俺がいつかていねいに愛した女。
これが彼女が望む愛なのだ。白い肌に、強烈な赤を塗りたくるような。そういう、愛。
そう思うと、やっぱり絶望的な気分だった。
それでも俺は彼女に身を捧げなければならなかった。俺が犯したその罪は、彼女の狂った愛より重いのだから。
横で眠る女の赤い唇に細く柔らかい髪が吸い込まれているのに気付いた俺は、重く軋む手でそれをそっととってやった。
黙っていれば、こんなにも、愛しいあの人のままなのに。
俺の手の中には相変わらず何も残らなくて、どくどくといまだうるさい心臓の音だけが俺の頭のなかでわんわんと反響するから、彼女のことを考えるのはやめておいた。
俺はぼんやりと溶けていく思考の中で、ただただ押し寄せる疲労感と倦怠感にあっさりとその身を投げ出す。
あいしてるよ、クイン。
君と一緒になら、血の海でも、地獄でも、どこまでだっておちていくよ。
それこそが俺が救われる、唯一の方法なのだから。
あいしてるのアンブシュア
(ちのいろはあいのかたちをとるか)