ぎろり、とあたしが睨みつけてもハチルは表情すら変えずまだそこにいた。あたしの腕の中、死んじゃってるのかと思うぐらい動かないのは、あたしのためなのか、自分のためなのか。それすらわからない、あたしにはなにもわからなかった。 あたしの心をつかんで離さねェくせに、そんな目であたしを見るなよ。
泣きたくなる、泣いてしまいたくなる。大声を上げて、子どものように泣きわめきたくなる。
どうしようもなくこの男が憎くて、あたしにはこの気持ちをどうにかすることができないのだ。こいつが泣きわめこうとほかの誰かとしあわせそうに笑おうとあたしの側で虚ろな目で微笑んでいようとあたしの心の中はいつだって荒れ狂っているのだ。だって、だって、あたしの心はとっくの昔にこいつに食い荒らされちまっていて、それをどうにか埋めようとして、なんどもなんどもくちびるを、からだを、かさねてみたけどダメで、
あァ、クソ。あたしはぎり、と奥歯を噛む。あたしの中には殺意に似た感情が渦を巻いている。限りなく殺意に似た、けれど決して殺意にはならないこの感情を、あたしはもうすでに持て余している。このまま抱えていたら内側から切り刻まれて死んでしまうのではないかと思うような、凶暴で、手のつけようのないこの感情を。それでもあたしはすべて丸ごと放り投げることなんてできっこねェのだ。だってこの感情こそがあたしのすべてなのだから。
イライラと乱暴にハチルのくちびるに噛み付けば、一瞬驚いた顔をしたのもつかの間にハチルはあたしを抱きとめてその手をそっと背中に添える。どこまでも優しいその紳士っぷりには吐き気がしそうだ。あたしはそんなことをする必要もないのに、彼が逃げられないよう右手を頭の後ろにまわした。
ねえ、いつになったらあたしのモノになるの
何をすればあたしのモノになってくれるの
縋り付くあたしの指先をハチルは何も知らずに優しく搦め捕る。このままきっと情けないほどあっけなく、あたしたちは死ぬだろう。
だから殺すよ、せいいっぱい、殺すよ。
あたしにもおまえにも、残された時間はきっと少ない。
死に損ないにとどめを
(いとしいひとよ、しね、)
どうしてこんなに とどかない