「貴方よりも大事なものがあったのだけれど」、と彼女は笑った
「あったはずなのだけれど、忘れてしまったわ。」
「忘れた?」
僕は思いがけない彼女の言葉に口をあけた
彼女はそんな僕をみてくすくす笑いながら、その温かい手でそっと僕の頬を撫でる
「貴方を見ていると、なにもかも忘れて、幸せになれるの」
優しく微笑んだ彼女の笑顔が、僕の頬を撫でるその温かい指先が、
そして僕を見つめる緩やかな視線が、柔らかく溶けてしまった僕の頭を甘い液体に沈めた
頬に寄せられたままの温かいその手にそっと自分の手を重ねて、
そのままゆっくり瞳を閉じてしまえば、彼女の鼓動が聞こえてきそうな気がする
温かく、ただ幸せな時間をゆっくりと刻むその音が、すぐそばで聞こえてくる
「僕もだよ」
ゆっくりと息を吐き出すように、僕は小さな声で言った
僕も君を見ていると、なにもかも忘れて、幸せになれる
だから君を選んだんだ、
まぶたを開ければすぐ目の前で、彼女が僕の瞳を見上げながら微笑んでいた
「結婚しよう」
一瞬大きく開かれた彼女の瞳に、ふわりと優しい光が灯る
僕の腕の中で、寄り添うその細い体をしっかりと抱きしめながら、僕は、
彼女の笑顔は、あの可愛らしい、黄色い花によく似ていると思った