気が滅入りそうな雨だった
カーテンを開けかけた手が、泣きだした灰色の空を見て止まる 「にいさん、」
後ろからかかった声に微笑んでから、転はシシーの前にしゃがみこんでキスをした
起きたばかりで眠たいのか、目をこする彼女の右手にはまだお気に入りのぬいぐるみが引きずられたままになっている
顔を寄せておはよう、と囁くと、呼吸するたびに心地よい彼女の甘い香りが頭にぼんやり染み込んでいく
「あめ」
「あぁ、雨だ」
そっと抱きかかえた彼女が転の腕の中で呟いて、
彼もまた彼女にそっと応える、今年も雨だ。
「気が滅入る?」
「シシーがいるから平気だよ」
微笑んだ彼女に、転はそっと言った
腕の中、抱いたままの小さな彼女の小さな手のひらがそっと彼の頬に寄せられて、
転は疑問符を飛ばしながらも妹の大きな瞳を見つめる
「おめでとう兄さん」
こつん、とあたった額の先で、シシーがそうっと呟く
小さな声は雨の音にかき消されてしまう前になんとか転の耳に届いて、少女を抱く彼の腕の力が少しだけ強くなる
ありがとうシシー、言いかけた言葉は少女の唇に塞がれて声にはならずに、
滑り込ませた舌の感覚に、ただ生まれてきてよかったと転はぼんやり思う
抱きしめた小さな体に、すべてをかけてよかったと
持てるすべての愛情を注ぎこんできてよかったと
「愛してるよシシー、」
振り続ける雨の音、囁き続ける愛の言葉は彼女に届かないかもしれない
それでも転は抱きしめるその体に、指先で掻き分けた髪に、舌を這わせた首筋に、
そう言い続けずにはいられずに、
「生まれてきてよかった」
パジャマ姿の彼女からは、雨の匂いとは違う、甘美な香りが漂い続けていた
抱きしめた青いモルヒネ
(今日は好きなとこにキスさせてあげるよ、兄さん)