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知らず知らずのうちに撫でつけていたピンク色の髪が彼女の目をゆっくり開けさせると、
俺はその手を止めて、ただ黙ってエマのことを見つめた
エマは腑抜けた表情でこちらを見つめていたけれど、そのうち中途半端に開いていた口も閉じた
何回かゆっくり瞬きをした後、彼女はまだ視線の定まらない顔で言う
「夢見た」
なんの、と俺が口を開く前に、今度はエマの左手が俺の髪にそっと伸びる
毛先が当たるのはくすぐったくて、俺が首をすくめると、
エマの小さな手が俺の首と肩の間に挟まって、動けなくなった
「お前誰だ」
エマは気の抜けた声で言う
まだ夢の続きを見ているかのように、目をうっすらと開けたり閉じたりしながら彼女は呟いた
「お前いったい何者だ」
「…重要か?」
静かにそういいながら、俺は首にあったエマの手を取りそっと頬に寄せる
エマは相変わらずゆっくり目をぱちぱちやりながら、俺の手を見ていた
「…さぁ……俺はお前のことをよく知らないから」
俺も、と言いかけた言葉を声にするのが何だかめんどくさくなって
ただ俺は目を閉じてエマの手にキスをする
俺もお前のことをよく知らないよ、そんな言葉を彼女に吐けるほど、俺はまだ強くなくて
俺の隣で眠る彼女のことを、俺もまだよくは知らない
身長は140cm弱、体重は35kgもないだろう。13歳ぐらいに見えるけど、本当は年も知らない。
髪の色はピンク。目の色も同じ。耳は長くて、恐ろしく地獄耳。性格は頑固で短気で、かわいい。
あと、名前は知ってる。エマージェンシープログラム。けどたぶんこれは、本名じゃない。
俺は、彼女のことをよく知らない
それでも俺は、彼女が好きだ。
伸ばした右手で彼女の頬をそっとなでると、エマは寝ぼけた顔で小さく微笑んだ
それから彼女も手を伸ばして、俺の頬にそろそろと指を這わせる
「お前は、変わってるな…」
睡魔に押しつぶされそうなか細い声でエマは呟いた
「ヘンなやつだ…お前は…」
エマの声は最後は聞き取れないほどか細いものだったけれど、
俺は笑いながら、寝ぼけたままのエマの頭をそっと撫でた
俺は彼女のことをよく知らない
彼女はもっと、俺を知らない
それでも俺は、彼女のことが好きだった
ただそこに寝ている彼女をいとおしいと思えることが、俺にとっては一番大事だった
身長や、体重や、名前さえどうでもよくて
俺にとっては彼女を思う俺の気持ちが、何よりも大事だった
それはきっと、俺がお前を知ることよりも
お前が俺を知ることよりも、ずっと重要なことなんだ
そう思う頃にはもう俺の頭の中もゆっくりと霧がかかったように視界がぼやけて行って、
俺はかすんでいくピンク色をそっと撫でながら、重たくなった瞼を落として静かに微笑んだ