とび起きた、というより、わめいた、という方が正しいのかもしれない
ベッドの中に転がってた僕は突然喉元を誰かの腕に掴まれて、息が出来なくなって
ギリギリと締め付けるその腕の持ち主を必死に見上げようとするのに、
彼の開いた口元が僕に囁く、鯉壱、もう時間切れだ……
「大丈夫ですか、鯉壱サマ…だいぶうなされてらっしゃいましたわ」
はぁはぁ荒い息をしてる僕の手をただじっと握ってくれてた緑露ちゃんがたまらないというようにそう言った
目が覚めた拍子に思い切りわめいたせいで、僕の喉はいつの間にかカラカラになっている
緑露ちゃんは僕のおでこにそっと手を当てて、なんだか悲しそうな、それでいて寂しそうな、よく分からない顔をした
「だいじょうぶ、わるいゆめをみただけ」
そう呟いて笑って見せる僕を、緑露ちゃんの手が何度も何度も優しく撫でる
お水、持ってきますわ、そう言って立ち上がろうとした緑露ちゃんの手を僕は思わず反射的に掴んだ
ちょっとだけ驚いた顔をした彼女に、ただ僕は笑って見せる
「…わるいゆめって、きっと現実を好きになるためにあるんだね。ここならいつでも、緑露ちゃんが傍にいてくれる」
渇いた喉で吐いた言葉は情けないくらい小さくて、かすれていたけれど
緑露ちゃんがゆっくり微笑んでくれたおかげで僕はその言葉がちゃんと彼女に届いたことを知った
緑露ちゃんは立ち上がりかけたそのきれいで長い脚をまた折って、僕のベッドの横に座る
その手はちゃんと、僕の手を握ったまま
「それなら鯉壱サマ、とびきり悪い夢をみるといいですわ。どんな夢でも私が、あなたを守って差し上げます」
すっと瞼に乗せられた緑露ちゃんの指は火照った頭にちょうどいいくらいに冷たくて
僕はその手を掴んだまま、またひとつ息を吸った
( いい夢なんか見てなんになる ) ( 目覚めるのが怖くなるだけじゃないか )