ちらりと目をやった腕時計は、本当に動いているのかと疑うほどのろのろと重く針を進めていた
俺をあざけ笑うかのようにゆっくりゆっくり、まるで嫌がらせだ
溜息をついてから、突っ立ったままの足元へ視線を落とす
もう待ち合わせの時間はとっくに過ぎていて、立ちっぱなしの足もそろそろ疲れてきそうな勢いだ
がくりと頭を落とせばよけい惨めな気持ちになって、俺は冷たい風の吹きこむエントランスを見つめた
見慣れた人影なんて一つもなくて、俺自身滅多に着ない喪服みたいな真っ黒なスーツを着込んで
何だかひどく場違いだと自分でも思う、もうこのまま帰っちまおうか。
本日何度目か分からない溜息が地面をかすめた時に、漸く彼はやってきた
「待たされる人の気持ちって辛いでしょ」
手には相変わらずバウムクーヘンだか何だかの袋を抱えて、それもむしゃむしゃやりながら、彼はにこりと微笑んだ
真っ黒な人波に、鯉壱の白いシャツが痛いほどに俺の目を刺す
「あぁ、」
俺は呆けた顔のまま呟いた
「辛いよ」
鯉壱は微笑んだまま俺の横を歩き出す
あとを追うように続いた俺は、喪服みたいなスーツを着込んだ俺は、
なんとなくそのまま消えてしまいたいような気がずっとしていて仕方なかった