頭の中いっぱいに悲鳴が広がった
耳を塞ぎたくなるようなその声は、聞き間違えようがない、愛したハズの彼女の声で
心臓の鼓動が止まる。息が出来なくなる、仕方が分からなくなる。
全身が冷水に浸かったようにすっと冷たくなって、しびれて、動かなくなって、
手にしていた帽子を取り落とした俺は、訳も分からないまま、はじけたように走りだした。
声の先、悲鳴の先めがけて、息もつかないままひたすら走った。
暖かい太陽の日差しの降り注ぐ庭で彼女が洗濯物を干していて、蜂に刺されそうになって、なんて恥ずかしそうに笑っていればいいと、そう一心に思いながら
庭では子供たちがサンドイッチの入ったかごを持って、お気に入りのぬいぐるみを抱えて、おままごとをしながら
息も絶え絶えに駆け込んだキッチン。
走り抜けたリビング。
視界にちらりと映るのは子供たちおそろいのピンク色の帽子。一つしかない。
庭に出るドアノブをひっ掴んだところで、心臓の鼓動が嫌な音を立てた
ひとつしかない?
めいいっぱい見開いた目が空気に触れてじわじわとした痛みになるまで俺はそれを見つめていた
開けられなかった
ドアノブを持つ手が震えて、思い通りに動かせなかった
頭のてっぺんからぶすりと鉄の棒を差し込まれたみたいに全身が固まったまま俺の言うことを聞かない
掴んだままのドアノブの冷たさも分からない
ただ胸の奥が異常なほど熱くて、はじけそうな心臓の音がうるさいくらいに頭の中でわめいていた
ドアはあっけなく開いた
その向こうで、小さな彼女たちはいつものように笑っていた
二人とも帽子はかぶっていなかった
お日さまの光が二人の綺麗な銀色の髪に反射して輝いていた
「ダディどうしたの?」
「お顔が真っ青よ、ねぇ」
ふたりはそっくりな顔を見合わせて、不安そうな声を出す
その向こう側に彼女の死体が転がっていないことを確認せずには居られなかった
「なんでもないよ、なんでも」
口の中でもごもごと呟きながら、俺は二人の小さな体を抱きしめる
握りしめたままの拳をそろそろとほどけば、冷や汗がびっしょり浮いているのが分かった
双子ちゃんとおくさんと Daddyの愛する幽霊たち パパはちびっこいピンクに取り憑かれてる