彼は顔をこわばらせたままだった
あぁ俺には分かる、分かるよハチルさん
苦しいんだろ、やりたいことやって好き放題してるのに苦しいんだろ、あんたは
ハンドルを握ったまま彼は動かない
どこだか分かんない一点だけを見つめてただただ何かに必死になってるみたいだった
その無表情からはなにも読み取らせない癖にそれでもどこか彼の一拍飛んだ心臓の音が今にも聞こえてきそうな気さえする
運転中なら平気だろうと高をくくって彼の胸に一番応えるような言葉を選んで投げつけてみたけど
当たったそのまま、言葉はぽてんと足元に落ちたみたいだ
なんだ、つまんねぇ
動揺だけ与えたところで何も面白いことなんか起きなくて
焦って泣きだすハチルさんを見るのも悪くはないかなと思ったけれど期待外れ
やっぱり鯉壱さんを攻めれば良かったのかなぁ、なんてそんなことは当然俺にはできようはずもないのだけれど
見上げたバックミラーに映る俺の顔
ハチルさんは見ていないから、すこしだけ口角を上げてみた
「俺が恋してあげますよ、ハチルさん」
追撃。
俺は彼が抵抗できないのをいいことにそっと耳元で囁いた
もっと苦しんでいいんスよ、どんどん苦しめばいいんスよ、
落っこちて落っこちて、俺の手の中に転がり込んできてくれたら、それこそが俺の一番の楽しみかなァ
最後の一言はもちろんいわなかったけれどそれでもハチルさんに大打撃を与えたことは言うまでも無かった
泣きだしてしまえばいいと思ったけど彼は小難しい表情を浮かべたままだんまりを決めこんで
その精一杯の強がりさえ愛しく思えた俺はヘッドシートの助手席側からハチルさんの唇にそっと噛みついて
あーあー、これじゃあどっちが遊ばれてるか判ったもんじゃないっスよねェ
絡ませあった舌の中で俺は彼をどうしても逃がしたくなくて、両手で彼の髪を掴み続けていた
奪い取ったキスの味
あれこれいっしょにうpしてるつもりだったのになぜ非公開にしてるんだ?
ドライブ中っていうシチュエーションにものすごくもだえるあたしです赤信号で襲いキスとか極みじゃないハァハァ