忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



2025/01/22(Wed)
ADMIN
懲りずに赤信号は再度蜂散の目を刺した
思わず溜息を漏らして彼はとじた眼をこする
ふっと視線を移した先、鯉壱を下ろした後の助手席は何だかぽっかり穴があいてしまったように寂しくて
脳の中には中途半端に鯉壱の残像まで残っているから忌々しい 「こいちさんいなくなっちゃってさみしいんスかァ」

後部座席から眠たそうな声が聞こえて、のそりと起き上がる転の姿がバックミラーに映った
酷い頭してる。自称イケメンが泣くぞオイ
蜂散の視線に気づいたのか、転は顔をしかめて髪を撫でつけはじめた

「いい御身分ですねぇハチルさん、二股とか、俺はできねェな!スズメバチってみんなそうなんスか?」
「うっせえなぁここで降ろすぞ!俺はみんな平等に愛してんだよ、そもそもてめェだって人のこと言えねェだろ!!」
「むっ、それは酷いっすよ!俺が愛してんのは一人だけ!シシーっス!だから俺は毎日違う子に恋してんス!」
「はァ?」

眠たげに自分の恋愛持論を語りだす転に蜂散は思わず疑問符を飛ばした
だから、俺は愛する人をちゃあんと選んでるんスよ、
転がそう言ったところで信号は青に変わり、蜂散はその意味を理解しないままアクセルを踏む
慣性に引っ張られて揺れた転の髪がチクチクとあたってくすぐったい
そんな蜂散の眉間による皺に気付かないまま、ふわあ、とあくびをかまして転は呟いた

「俺、鯉壱さんが聞かないからずっと聞くの我慢してたんスけど、」

バックミラーの中で転はにやりと口角を上げた

「ハチルさんは、ほんとはだれが好きなんスかァ?」

どくん、と一つだけ心臓が暴れた
にやにやと口角を持ち上げたままの転の言葉にキャスケットの影が映って余計イライラする

「俺が愛してんのはツユキだけ、っスかァ?」

口が開かなかった、開けなかった
ツユキのかわいい顔も、恥ずかしがった時の表情も、あの柔らかい声も、肌も、髪も、
愛してる 俺はあの子をちゃんと愛してる
愛してる?
俺は、俺はあの子を、ちゃんと、愛せてる?

助手席に残ったままの鯉壱の残像が痛い

「ハチルさん」

転の髪が俺を刺す
ヘッドシートのすぐ後ろ、耳のすぐそばで転の声がする

「あんただれも愛してねぇんじゃねェのか」

運転中でよかったと思った
そうじゃなきゃ、きっとこいつを殴り飛ばしてた
目の前の道路に、景色に、集中しろ、と唱え続けた
体が熱すぎて、どうにかなりそうだった

「あんただれかを愛するのが怖いんじゃねェのか」

転が呟いて蜂散は漸く呼吸することを思い出す
信号が、信号が赤く光った
くそ、さいあくだ

「なぁ」
「もうやめろ」

強く制するつもりだったのに
口からこぼれた声は思いがけないほど弱弱しくて

「やめてくれ」

その通りだ、と思った
こんなにも愛してくれる人がいてこんなにも愛されて、それが気持ちよくて心地よすぎて
怖いんだ、それが壊れちまうのが、手から落っこっちまうのが、怖い、こわいんだ
ツユキも、鯉壱も、クインも、拾ってすくいあげて抱きしめておきたい

なくしたくないんだ

ハンドルから指が離れない
アクセルに乗せた足も動かない
体中が勝手に固まって、心臓だけが爆発しそうで

「俺が恋してあげますよ、ハチルさん」

耳元で転が呟く甘い囁きは抵抗のできない蜂散に絡みついて、離れなくて
信号が赤なのをいいことに、転は蜂散の唇にそっと自分の唇を重ねた

 

やり損ねたキスの味





アドベントカレンダー一日目のおまけ。鯉壱が車を降りたあと転さんはハチコをいじめておりました
蜂散はみんなを愛してる だから容量オーバーする わけわかんなくなっちゃう 転は遊び人だけど、本当に愛してるのは妹だけ だから蜂散をからかうのは面白い 蜂散がどういう人か分かってるから追い詰めて追い詰めて縋ってきたところを優しくしてあげちゃう 策士! 転は蜂散とキャシー経由で知り合ってるので蜂散のことをハチルってよぶよ! 

 



2010/12/05(Sun)
ADMIN