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2026/07/07(Tue)
ADMIN
リアルパロ
ハチコと弥太郎シリーズひとつめ。


世界を覆うインターネットの回線を這いずり回る情報は、
ちょうど蜘蛛の巣みたいに集中しては広がって、拡散し、世界中を行き来する
目に見えないからこそ強大で膨大に膨らんだその姿の無い危険分子たちは
いつのまにか今の社会に生きる人間たちに癒着して依存し、切り離しはもはや不可能だ

そういうのをなんて表したらいいのか、あたしは適切な言葉を知らないけれど
とにかくあたしがそういうものをつくりあげる会社に派遣されてしまったことは事実だ

ところがあたしの配属されたチームには八乃木弥太郎という名の厄介な男がいて
健康だけが取り柄のあたしから見れば信じられない話だけど
彼はもうすぐ死ぬと、そう、綺麗過ぎるぐらい緩やかに笑ってから、
それから、本当に(でも嘘みたいに)、死んでしまいやがったんだ、

世界はあっけないもんで、たった一人男が消えたぐらいじゃあ揺らぎもしない
あたしも信じられないことに、弥太郎のいないオフィスでただ黙々と残業、という名のお仕事をして
こんなにも薄情な世の中のために、自分の目とか肩とか腰とか、そういう自分の体を痛めつけている
それどころか、葬式にまで出たくせに、まだ弥太郎が生きてるみたいな気さえしているんだ

「後は頼んだ」

あの時の彼の言葉をあたしは思わず笑い飛ばしたけど
彼は少しさみしそうに微笑んだだけだった

実際のところ彼の言葉は正しくて
あたしは不甲斐なさに泣きだしてしまいそうで
そんなことあいつが知ったらものすごく変な顔されそうだけど
あたしは涙がこぼれおちてしまわないように唇を思い切り噛んだ

彼がいなくなった世界はちょっぴりさみしくなった

彼がいなくなったオフィスも
彼がいなくなったデスクも
彼がいなくなったことを知らないまま
彼のことを待ってるみたいで

ディスプレイに張られたオレンジのポストイットには
彼の特有の細い字がまだ残っていた

『後は頼んだ』

ごめん、弥太郎

噛みしめた歯がぎりっとなった
あたしはポストイットに書かれたその細い字を頼りに、
ロックされたパソコンの指示通り、パスワード入力画面に向かって12桁の数字をならべる

ピピッという短い電子音ののちにぱあっと開けた画面に映る名前、

「八乃木弥太郎」

見た目に反してイカツイ名前だと、あたしはあの時あんたを笑ったっけ
チクタク、時計の針がなる
弥太郎のデスクにひっそりと佇む時計は、午前0時を回っていた

<ydobsih.eye>

表示されたのは見たこともない拡張子のファイル
それでもあたしにはそれが探していたものだと言うことがすぐに判った
目の前でインストールプログラムが起動する
オートマニュアルに沿ってプログラムが展開されていく
あたしはそれを見るとも見ないともつかない視線で眺めていた

「…まじかよ、弥太郎」

これが、あんたがやり遂げたかったこと?
インストール完了直後、ブォン、と表示されたデータにあたしはおもわずつぶやいた
どくり、心臓が異常な音を立てて、肌が泡立つのが判った
弥太郎のパソコンにぽつんと隠されたファイルの存在はあたしと彼以外知る者がいるはずもないのに
暗いオフィスをあたしはぐるりと確認せずにはいられない、
だってだって弥太郎、これじゃまるで、
あいた口がふさがらない、急に冷え込みだしたオフィスには耳が痛くなるほどの静けさが覆っていた



 



2010/11/19(Fri)
ADMIN