薄いガラスの向こうを通り過ぎていく景色に鯉壱はただぽかんと口を開けたまま
冬の夕日はあっという間に高層ビルの向こうに隠れて落ちて
街は覆いかぶさろうとする闇にあらがうように、眩しいくらいの人工的な光を放っていた
両側3車線の国道沿いは早くもクリスマス気取りで
華やかな赤と白と緑の光がきらきらと街を着飾っている
飛び込んできた目を刺すような赤色に蜂散はちっと一つ舌打ちをして
助手席で外を眺める鯉壱はその音に首をかしげた
「また赤だ」
街はクリスマス
ごちゃごちゃした色とりどりの人の波が横断歩道にあふれる洪水のように
ガラス越しに鯉壱の鼻先をかすめていく
蜂散は右手の腕時計に視線をやってから、またひとつ盛大にため息をついた
彼の指がハンドルを叩く音が規則的なリズムで鯉壱の耳に届いて
鯉壱は蜂散の機嫌が悪いことをその音で知った
はぁっと透明な窓ガラスに息を吹きかければ
暖かいその息が透明を白く曇らせる
鯉壱は冷えた指先でそこに小さくハートを書いて、少し迷ってから思いなおしてそのハートを指で消した
「くそっ」
視線は向こう、信号に向けたまま彼は言う
「こんなに混んでるんなら、少し早目に出るんだった」
鯉壱は何も言わずに運転席の蜂散を見上げる
首に食い込むシートベルトが痛くて、鯉壱はそれを引っ張っては体の向きを変えようとしたがダメだった
それに気付いた蜂散が、ちらりと視線を投げかけて呟く
「はずしちゃえよ」
鯉壱が口を開くその前に、彼は助手席のシートベルトにそっと手を伸ばした
かちり、と小さな音を立てて、ベルトはいとも簡単に外される
それでもしばらく蜂散は鯉壱の頬から手を離さなくて
曖昧に微笑んだかと思うとそっと顔を近づけるから
「青」
鯉壱が静かに呟いて、蜂散はため息とともにゆっくりアクセルを踏んだ