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2025/01/15(Wed)
ADMIN
ぽこぽこと静かな水面が揺れたかと思うと、それはまるでソーダ水の泡みたいに、すぽんと水面に浮かんできました。
ざばり、水面が揺れて、金色が揺らいだかと思う間もあらばこそ、今でもはっきりと思い出します、水面下から現れたのは少年でした 呆然と岸辺に立ち尽くしていた私は、突然の出来事に心臓が痛くなるほどの異常な心音をどこか遠くで聞いていました
もしかしたら、と私の脳内にふわりとおぼろげにある人物の影がよぎります
私の心臓の音はどんどん大きくなっていって、私はもう我慢できずにそれを吐きだしてしまいたくなりながらも、
気持ちの悪い緊張感と、冷や汗が伝うほどの期待感で板挟みになっていましたので動くこともできず、ただただその光景を見つめていました

はァッと大きく息を吸って、少年は咳き込みます。
ゼェゼェと粗く息をして、彼の肺が一生懸命酸素を取り入れようとする様は、まるで口をパクパクと動かす魚のようでした。
少年が顔に張り付いた金色の髪を掻き分けると、綺麗なピンクと紫の瞳がちらりと岸辺に立っていた私をとらえました。

その時私は確信したのです、ついに見つけた。彼を、ついに見つけたと。
緊張感と入れ替わるように一気に押し寄せた安堵感に、私は立っているのもやっとでした。

私が不安と期待の色を浮かべている間にも、水面に浮かんだままの彼は少しの間ののち、最後の力を振り絞って、岸辺まで泳いでやってきました
ざぱり、少年が岸辺に上がるのに、私は左の手袋をはずしてそのまま左手を差し伸べました。
彼が左利きであることは、ずっと昔から知っていました。
そう、ちょうどこうやって、彼が私に左手をそっと差し伸べてくれた時から。
彼は疲れ切った様子でゆるりと屈託のない笑みだけを浮かべると、素直に私の手を取ってありがとうと小さくつぶやきました

私はちょこんとほほ笑むだけで、内心何を言ったらいいものか困り果てていました。
彼と出会ったのはずいぶん昔のこと。遠い昔話です。彼の姿はそれほど劇的な変化はありませんが、私の容姿は彼に助けられたあの時とは大きく異なっているのです、
どうやって切り出したらいいものか。私は考えを巡らしながら、彼の様子をうかがいました
彼はびしょぬれになった服の裾をねじって絞っているところでしたが、いくら絞っても絞りきれないその水の量に小さくため息をついて絞るのを諦め、丁寧にしわを伸ばし始めました。

「…ずいぶんおっきくなったんだね」

彼はしわに目をやりつつ、ぽつりとつぶやきました。

「昔は僕よりずっと小さかったのに」

微笑む彼の顔に、思いがけず目じりが熱くなりました。
今までなんと切り出そうかと、選ぶのに迷っていた言葉はすべて吹き飛んでしまいました。
彼は私に出会った日のことを、覚えていてくれたのです。
私に向かってゆるりとほほ笑む彼の笑顔は、あの日と同じ、むしろあの日のまま止まっていたかのように鮮明でした。

「……きっと、ミルクをたくさん飲んだからですわ」

私はもごもごといいました。口を開けたら涙がこぼれてしまいそうでした。
私は不甲斐ないことにあの時から何も変わってはいないのだと思いました。
彼に恩返しがしたくて、必死でいろんなものを習得してきたのに、彼の目の前だとぐずぐずと泣くだけの女など彼にとっても迷惑でしかないと思ったのです。
だから、私は一生懸命涙をこらえようとしました。その滴が零れ落ちてしまわないように細心の注意を払いました。
ところが彼はあっけらかんとした態度でびしょぬれのままけらけらと笑いだしました

「僕はねェ、あれから毎日ミルクティーを飲んでるんだけど、ちっともおっきくならないんだ。逆に背が縮んじゃってるみたい。ねぇ、またあのときみたいに、美味しいミルクティー淹れてくれる?」

きっとこの人は

「…ええ…、!」

きっとこの人は私の手には負えないだろうと
微笑んだ顔にこぼれたちいさな雫がそう伝えていました


 

びしょぬれにかんぱい





鯉壱は泳ぐのは得意 たぶんしょっちゅう水の中にいます たまに息するの忘れたり わざと水上に上がらなかったりして死にかけることはあるけど溺れてたわけじゃないのよ
どうでもいいけど乾杯と完敗でまよったから平仮名表記にしておいたという余談




2010/11/07(Sun)
ADMIN