げふん!と言う鈍い悲鳴に俺はぽかんと口を開けた
どすん、という音ともに俺の左足にぶつかってきたのは小さな少女で、
人の波でスペースもとれないほどの大騒ぎなこの場所を
豪快にごろんと転がったかと思うと彼女はまた唐突に停止した
どうしたのはちこ、わたあめ片手に鯉壱が立ち止まった俺を不思議そうに振り返る
首をかしげて転がって行った先をみれば少女はむくりと起き上っているところで
あ、なんだ生きてた、のんきにそう思った俺が鯉壱の後を追おうとくるりと踵を返した、その時
「まてコラ」
よろよろとよろけた少女のドスの効いた低い声
は、と裏返った声を頭の中に響かせて俺は思わず振り返る、
視界に入ったのは変わらない、夏祭りでごった返す人の波
その中にぎらつく視線をまちがいなく俺に飛ばしまくっている小さな少女
間違いない、いまの声はこの子で、そして俺はこの子に完全に敵視された
ぶつかってきたのはあっちの方で、確か俺には一片の非もないはずなのだけれど、
むしろぶつかられて謝られたっていいはずのこの状況での 「まてコラ」 は完璧に謝ろうという心情の者の吐く台詞ではない
ぴゅんと直感的に感じ取った己の身の危険、
慌てて転がった俺の横に / thunder が落ちたのは間一髪後のことで
ひぃっ!と思わず情けなくも悲鳴を上げた俺に気付いた鯉壱ちゃんが、
ゆるゆると視線をこちらに向けた
「鯉壱!」
こんな切羽詰まった状況でも大きな目をぱちくりさせてちょこんと首をかしげる鯉壱に
ああやっぱり可愛いなぁだなんて一瞬ちらりと私的な感情が頭によぎってしまう自分の呆れた脳味噌に眉をしかめながら
それでも俺は彼の名前を思いっきり叫ぶ、
突然落ちた雷のせいで夏祭りはぶちこわしの大パニック、
それでも平然とわたあめを食べ続ける鯉壱に先ほどの惚気た感情というよりむしろ尊敬の視線を向けつつ
俺は逃げろと鯉壱に告げるつもりで口を開いた
ところが彼はにっこり微笑んだまま俺を見つめているから、
思わず俺は意味もなくきゅんとときめいてしまって、
うおおこの状況を理解してねェのは俺の方だ!ぶんぶんと頭を振って目を見開いた先にはもう鯉壱はいなかった、
「はっ!あれ、鯉壱ちゃん!?」
思わず叫んで腰をついたままあたりを見渡せば、
鯉壱は例の、俺にぶつかってきた挙句に逆上しだした少女に向かって微笑んでいるところだった、
「エマちゃん、夏祭りはぶちこわしちゃいけないんだよ」
言うなり鯉壱はまた一口わたあめに口をつける
言われた少女はぶすりと口を突き出して不愉快そうに鯉壱を見上げた、
俺にしてみればその光景はまさに口を開けて疑問符を飛ばさなければいけない、そういう状況だったのだけれど、
俺はただただ何をするわけでもなく小さくため息をついて空を見上げた
鯉壱ちゃんの知り合いかよ、どうりで殺気立ってるわけだ
俺の結論には結果的にはそこに落ち着いて、はぁ、なんて曖昧に溜息を吐く
夏祭りには場違いな程のきっちりした制服を着こんだあの子に、
鯉壱はわたあめ食べる?なんてのんきに呟いて
あーあ、やっぱ俺に鯉壱ちゃんは大物すぎんのかなァ
咲き始めた花火の音に、俺の声はかき消されてしまっただろうけど
無風流なあの子と俺の頭のなか
( お、鯉壱、ウチのが世話んなってんな )
( あ、フリッカ )( てめェフリッカロッタァアァ!!)
( なんかまた変なのでてきたよ怖えーよもう )
空気読めないエマと鯉壱にでれでれなハチコ 疾走感のあるお話にしたかったんだけどな!! シリアスとかぼこりもいいけどたまにはかわったのもかきたくなる