「ねぇ」
「なに」
「愛してるって言って」
唐突な要求に俺は顔をしかめた。
空は快晴、季節は夏。
それでも彼女と俺の会話は年がら年中繰り返しだ。
ソファの向こうから目を細めて俺を見つめるクインに、俺は痛い目を見ないうちにと彼女の希望通りの言葉を吐いた。
「愛してる」
ところが彼女はどうも納得のいかない様子で、突然立ち上がってずかずか俺の隣までやってくると俺のもっていた本をはたき落してぐいと顔を近づけた。
綺麗な顔に憎悪が浮かぶ。
これだから、彼女は苦手だ。
「そんなんじゃ、嫌だ」
なんならいい。こいつの考えていることは誰にも理解できなくてもちろん俺だって例外じゃない。
クインは少し眉を上げてから、今度は俺のシャツの襟をつかんだ。
触れそうな距離で、いつ殴られるかと俺は顔を歪めて彼女を見上げた。
ところが飛んできたのはパンチではなく、彼女の綺麗で細い腕。
すっと俺の頬を撫でたかと思うと、その指は俺の顔に添えられた。
「あたしのこと、愛してる?」
どこか不安げな、いつもと違うクインの表情は俺をゆっくり侵食して
近すぎる距離でクインの顔に手を添えるのは簡単だった。
「あいしてるよ、クイン」
やわらかく告げた後にクインは小さく安堵の表情を浮かべ
それから落ちてきたくちづけは俺の頭に痛く響いた
彼女は離れるときに俺の口に噛みついていくのも忘れなかった
俺の口元につっと赤い線が出来て、クインはやっと満足したのかばすりと俺の胸のなかに収まった。
ふっと小さくため息をついて、俺は親指で口元をぬぐう。
じわじわと痛む傷跡は、一か所だけではなかった。
くちづけキドニーブロゥ
( ねぇいたみますかあたしのあかしはちゃんとのこせてますか )