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三寒四温とは言うけれど。
急激に暖かくなって、春の気配どころかもう到来を感じさせる気温にまで上り詰めたんじゃないかと、
ゆるくぼんやりした頭で蜂散はそう思った。
「…春も悪くねェ」
ぽかぽかとさす日の光、ゆるゆると流れていく春風に、思わず蜂散もあくびを一つ。
そのまま野原にごろんと横になって、目を閉じようとした、その時。
視界の上の方で、ゆらゆらと、春風に揺れる黄色。
たんぽぽ?いや違うなァ。
それが何なのか蜂散が理解するまで、それほど時間はかからなかった。
がばりとおきあがり、そろそろとそれに忍び寄っていく。
無意識のうちに口角が持ちあがるのが判って、忍び笑いが声にならないようぱっと両手で口を覆った。
「みーちか!」
後ろから突然がばりと覆いかぶさってきた敵に、
蜜千歌はぴいいいい!と大げさな悲鳴を上げてわたわたとそのまま前に倒れこみ、
しまった、やりすぎた、と慌てて自分を抱き起す蜂散をまぶしそうに見上げてはじめて、目の前の人物をようやく認識したようだった。
「は、はちるさんっ!?」
目を大きく開いて驚く蜜千歌に、蜂散は当たり、と笑う。
蜂散の突然の登場に、開きっぱなしの蜜千歌の口を蜂散が指先でかくんと閉じて、
まだかくかくしている蜜千歌に蜂散は思わず大丈夫か、と首をかしげた。
「へ、平気っちょ!ちょっとびっくりしちゃっただけっちょよ!」
「ほんとに?震えてるけど」
そう言って蜜千歌の手をとった蜂散は軽い彼女の体をひょいと抱き起こす。
大きな目をぱちぱち瞬かせながら、ありがとう、と呟く蜜千歌が可愛くて、蜂散も思わずににこりと微笑んだ。
暖かい春の匂いのする風が、彼女の黒髪をさらさらとなでる。
「蜂散さん、こんなところでなにしてるっちょか?」
「蜜千歌にセクハラ」
「そんなこときいてないっちょ…」
小さな疑問に大真面目な顔でボケを返されて、蜜千歌はすこし呆れたように蜂散を見上げた。
鼻先をかすめていく風に少し優しい気持ちになって、ま、いいかと思ってしまうのだけれど。
「蜜千歌は?何してた?」
「おいらは、お花の香りで癒されてたんだっちょ」
にこり、そう笑って蜜千歌はそばに咲いていた黄色い花に顔を寄せる。
蜂散は一瞬不思議そうな顔をしたが、蜜千歌がおいでおいでと蜂散を呼んだので彼女のする通り花に顔を寄せてみた。
にこにこと嬉しそうな蜜千歌の声が尋ねる。
「ね、いい香りっちょ?」
「確かに、いい匂いがするんだな…注意して嗅いでみたこと無かったけど」
「そういうもんだっちょ」
おいらはみんなが気付かないような些細なことでも、幸せになれちゃうから得なんだっちょ
さらりとそんなことを言ってのける彼女に、思わず蜂散も笑顔がこぼれて、
まぁ俺は花より蜜千歌の匂いの方が好きだけど、そう呟くなり蜜千歌の綺麗な髪に顔を埋めた。
「…春の匂いがするな、蜜千歌」
「はる?」
「あったかくて、きもちいい、幸せな匂い」
「はちるさん、セクハラっていうんだっちょ、そういうの」
「知ってる」
首をかしげた彼女にそう呟けば、くすくすと笑いながら蜜千歌はため息交じりにつぶやいた。
それでも蜂散の行為を拒絶しない蜜千歌はどことなく楽しそうで、
突然くるりと蜂散の方へ向き直ったかと思うと、じゃあ、と笑顔で呟く。
「おいらが春の匂いなら、蜂散さんは、サボテンの匂いだっちょ」
「さぼ……!!?」
あまりに刺々しい、いや満面の笑顔でそう言う蜜千歌の言葉に棘は一切ないのだが、
それでも棘だらけのサボテンにたとえられた蜂散は思わず石化した。
蜜千歌意外と毒舌、?そもそもサボテン、花あるのか、?
もっと例え方あんだろう、ずきずきと痛むハートに蜂散はひきつった笑顔を浮かべる。
「サボテンの花は、すっごく綺麗なんだっちょよ。香りもすごくいいし♪種類によって、いろんな花が咲くんだっちょ!」
いや、いやフォローされても湧かねェよイメージ、
石化したままの蜂散に気付かないのか、蜜千歌があまりにも楽しそうに続けるので
蜂散は完璧に発言のタイミングを失っていた。
みちかみちか、俺、別にそんなつもりで言ったんじゃねぇんだぜ、?
心の中で呟いた言葉はもちろん蜜千歌には届かない。
サボテンなのか俺は、その事実を受け止めきれずにため息までつきそうになる蜂散に、蜜千歌の笑顔がこう言った。
「おいら、サボテンの花が一番好きかも知れないっちょね~」
それは、とても小さくて、さりげない呟きに等しいものだったのだけれど、
それでも蜂散の心にずしんと重く響いたその響きは、彼を立ち直らせるには十分すぎるほどだった。
蜂散はがばっと正面から蜜千歌を抱きしめるやいないや彼女の耳元で叫ぶ、
「俺も~!おれもみちかがいちばんすき~!!」
当然、今度は、ぎょっとしてみるみる赤くなった蜜千歌が石化する番だった。