むかし彼女はこう言った
『私がお花を好きになるのは、きっとそれが美しいから
お花が綺麗なのはね、Daddy、いつか枯れてしまうものだからよ』 あの時の彼女の笑顔に、俺はただ苦笑して、難しいこと言うんだなぁって
ただぼんやりとそう呟いただけだった
彼女があの時俺の笑顔をどんな気持ちで見ていたのか、
今となってはもうその答えを確認することはできないけれど
きっとこの先ずっと、俺は彼女のあの寂しそうな笑顔を忘れることが出来ないとおもう
俺の足元に散らばった黄色い花びらが、あの時の彼女のようにただひたすら俺のことを待ち続けているような気がして
きみは知っていたんだね
花が枯れていくことを
俺は知らなかった
きみが散ってしまうことも
美しい微笑みのまま、鮮やかな笑顔のまま
きみが居なくなってしまうことも
俺の手から滑り落ちたその黄色い花びらは、もう2度と元通りにすることはできなくて
俺はただひたすらきみのための花を咲かせ続けた
何度も何度もきみを呼んだ
俺の手からその花は何度も現れるけど、俺はまだ君を取り戻すことはできないんだ
あの日から、ずっと
俺はもう、何も知らないあのころとは違うよ
いろんな事を見てきたし、いろんな事も出来るようになったよ
きみの大好きな料理だって作れるし、きみに似合う帽子だって作れるし、
きみが喜ぶマジックだって、きみのためなら何だって、
ねェ、きみは今、
いったいどこでどんな風に、咲いて、
こぼれた涙の温度さえ、俺にはよく分からなくて
ただ両手に抱えたきみへの花束を、手放せずにぎゅっときつく抱きしめた
ぐしゃぐしゃになって、苦しそうに曲がった花は、それでも鮮やかに笑うきみとそっくりで
俺はその黄色に顔をうずめた
何回目なのかも分からない、きみがいなくなったこの日に
俺は何回目か分からない、きみへの愛をひたすら叫んだ
(きみを愛した記憶だけが、この腕の中で)
(泣いて、泣いて、)
Daddyは双子のことは覚えているけど、奥さんのことはほとんど覚えていません それはヴィレッタが彼から名前を奪った時に、彼女に関する記憶も一緒に持っていかれてしまったから それでも奥さんが好きで好きで、たまらないことだけは覚えているんだ 帽子屋にいる時のDaddyより、ヴィレッタが入ってこれない分、きっとおうちにいるときのDaddyのほうが、人間らしいというか、もとの「父親」らしい感情が強いといいなぁ。独りぼっちでわんわん泣いているといいとおもいます