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2026/06/23(Tue)
ADMIN
思い切って加速
( 擬リヴ絡み小説07 / 蜂散とわいわい / 龍夜様宅ユフィくん )
※龍夜様のみお持ち帰り可能です

だらりと伸び切った触角が、蜂散のテンションの低さを物語っていた。
先日お気に入りだったパキケの子にバイは嫌いだとフラレたせいで、
彼はここしばらくぐだぐだごろごろと、素晴らしいほどのニートっぷりを発揮していたのだ。
それが、突然ぴくんと触角を持ち上げて、
それを合図にがばりと起き上った彼は、眼を細めて先を見た。

「なァ鯉壱ちゃん」
「なあにハチコ」

緑露と一緒にテーブルクロスを干していた鯉壱は、小さくいつもの返事をした。
蜂散は視線をそらさずに、静かな声でゆっくりと言う。

「すっごいかわいいおんなのこがとおった」
「…………僕見てなかったけど」
「きっとおれいますぐおいかけなかったらすごくこうかいするとおもう」
「………ハチコがそう思うなら、追いかけてみるといいんじゃないかな」

まぁ僕ならやめとくけどね、鯉壱がそうつぶやいた時には、そこに彼の姿はなく。
小さくため息をついて、鯉壱はテーブルクロスに洗濯ばさみをまた一つつけた。


***


そよそよとそよぐ風。
ユフィはなんだかなんとなく暇で、少しだけ風に当たってみようと外を歩いているところだった。
かといって、何処という行き先もなく、ただただ適当に歩いているだけのいわゆる散歩というやつだ。

ゲーセンにぬいぐるみでも取りに行こうか。
ふとそんな考えが頭をよぎったが、この前見かけて一目ぼれしたピンクと黒のねこのぬいぐるみをとるために
昨日のような大金を使い込むわけにはいかなかったのでそこはぐっと気持ちをこらえた。
ゲーセン行ったら絶対欲しくなっちまうもんなァ…。
欲しい、と思う気持ちは変わらないのだ。
でも、そこは昨今の経済事情が絡んでくると非常にややこしい問題ごとになる可能性がある。
衝動と理性は常に水平に保たなくてはならないのだ、あれは、また今度にしよう。

そんなことを思い詰めていたら、自分としたことが、後ろに見知らぬ男が立っているのに気付かなかった。

「なぁキミ、いま暇かな?」
「………っ!」

その男の気配に気付いて、振り返った途端に背筋が凍った。
頭からぴょこんと伸びた触角、背中から生えた翅、……!

こいつ、虫だ!!

気付いた途端にぞわぞわと毛が逆立つような感覚になって、思わず座り込んでしまいそうになった。
だがしかし空想にふけっていたとはいえ、こいつは自分の背後をとるような男だ、いや虫だ、
弱みを見せたらどんなふうにやられてしまうか判らない。
ユフィは今が理性を使うところだ言わんばかりに、湧き立つ恐怖を意地と理性でどうにか抑え込んだ。
目の前の男は、人の気も知らず笑顔を崩そうとしない。

「キミみたいな可愛い女の子見つけちゃうなんてラッキーだなァw一緒に遊びにいかねェ?」

にこにこと微笑むそいつとは対照的に、ユフィの中で何かがぷつんと音を立てて切れた。
恐怖も、理性も、吹っ飛ぶような一言が、彼には聞こえてしまったのである。

「だ…れが…」
「ん…?」
「だれがかわいいおんなのこだああぁあぁっ!!!」

びゅおっと音を立ててユフィの腕が風を切った。
驚いて目を丸くした男は一瞬固まり、かろうじてその腕を避ける。

「ちょ、!落ち着けって君十分可愛いよ?!んなの短所ってかむしろ長所、」
「だまれ!それ以上言ったらぶっ殺す!!触角と翅もいでから爪一枚ずつはがしてギロチンで斬首刑にっっ、」
「ぎゃー!!グロテスク!!やめろそんなこと言うの!想像しただけで痛い!!」
「うるさい!黙るのはお前だ!俺を女呼ばわりする奴はみんな死ねばいい!」
「うおお意外と恐ろしい脳内回路の持ち主だな!っていうか、男、!?」

あたふたと逃げ回る男にユフィは容赦なく突っかかる。
漸く自分の犯した過ちに気付いた男は眉根にしわを寄せてユフィを見た。

「そうだよ!俺は男だ!それもさんざん周りから童顔だの女顔だの冷やかされるぐらいの可愛い可愛い男の子だよ!!」
「(うっわ自分で言っちゃったよこの子!)ご、ごごごめんなさい!やめてぇ羽根はもがないでぇ!」
「ええいうるさい!俺だってこんな可愛くなりたくて可愛く生まれたわけじゃないんだからな!可愛いものなんて嫌いなんだからな!!」
「わわかったっつの!だから翅離そうかすこし話し合わないか!」
「俺の事を可愛いとかいった罰だ!翅一枚ぐらいなくなったって生活不便しないだろ!」
「ぎゃあまじでやめろやめてください!だれかたすけてぇ!!」

背後に回って翅を根からつかみ、ユフィは驚いてぎょっとする男を始末しにかかる。
喚く男を抑えつけようとして、ユフィははっと気がついた。

やべぇ、俺、いま、虫に素手で触ってる。

彼にとってはあり得ない、とんでもない恐怖が彼自身を走り抜けた。
ユフィはあわてて掴んでいた翅から手を離し、ばばっとその男から距離をとる。
突然翅を放された男はというと、引っ張られた背中のあたりを撫でながら何とか立ち上がり、
いてぇーとかさんざん文句を言いながらよろよろしていた。

ユフィは勇気を出して、その男に話しかける。

「お、おまえ!」
「…!……なんだよ、そんなにツンツンしなくたっていいだろ!危うく翅捥げるところだったし…つーか、ちゃんとついてるよな俺の翅!!」
「う、うるせェぞ!…翅ならちゃんとついてるから安心して聞け!」
「なんだよ偉そうだなァ…間違えたことなら謝るよ、だからな、とりあえず落ち着け」
「お前、いったい何者だよ…!虫か、!?虫なのは間違いねぇよな…!」

先ほどとは打って変わってビクつく女の子のような男の子に、虫の方もなんだか気持ちが緩んだようで、
少し考え込んだように上目遣いで目をぱちぱちさせていたが、そのうち頭を掻いてけろりと呟いた。

「そうさ、俺はスズメバチだ。スズメバチの蜂散。キミは?」
「……ユフィだ…虫は、嫌いなんだ…」

ユフィの言葉を聞いて、蜂散は目を丸くしてぐるりとまわした。
がくりと首を傾けてため息をついた後、彼は口をとがらせて言う。

「キミもか、…キミも見かけとか偏見で俺を判断するんだな!」
「は?…お前だって俺を女だと思ってナンパしてきたんじゃねェのかよ!!」
「んなこたァ俺にとってはどうでもいいんだよ、可愛かったから声かけたまでだ!惚れた相手が男だろうが女だろうが俺には関係ない!どうだ、ドン引きか?!」
「うん」
「反応早ッ」

突然の蜂散のカミングアウトに若干、というかどん引きのユフィ、
返事は即答だったが、これが逆に蜂散の心を何故か煽ったようだった。
蜂散はがっとユフィの手をつかむと、驚くユフィに鋭く一声する。

「ともかく俺はユフィに惚れた!これからデート行こうぜ!なっ」
「はぁ!?、い、行くか変態!離せ!じんましんでる!!」
「じんましんは酷くねェ?!あ、でも最初の強烈な殺害告白よりはましかなァ」
「話聞きやがれてめェこのアホ蜂!!」

かみつくように怒鳴るユフィだが、蜂散は効くどころか逆ににこにこ笑っているのでさらにムカつく。
これは完全に変態アホ蜂のペースに呑まれてしまっている。
なんとか取られた手を引っぺがそうとするがそれすら許さないこの変態は計に腕をからめて来たりしてもううんざりだ。
何が悲しくてついさっき知り合ったばかりの変態とお手手つないでデートに行かなきゃいけないんだよ!
し、しかもコイツ虫だぞ、むし!
もう思いっきり泣いてしまいたいユフィだったが、蜂散は相変わらずけろりとユフィの腕を引く。

「なぁユフィ、どっか行きたいとこあるか?」
「は、行きたいとこ、!?変態と一緒に行きたい場所なんて、!」

そこまで行ってうっと言葉がつまった。
行きたいとこ、思いついてしまったのだ。
ま、まぁただのとおりすがりだし、俺がゲーセンに行きたいって言ったって不信がらないと思うんだ、
しかも、もしかしたら、もしかしたら金出してくれるかもしれねェ…!!
そしたら、そしたら念願のピンクと黒のあのねこのぬいぐるみを抱いて夜眠れる…!!

ユフィの理性は、偶然出会ってしまったこの蜂に完全に持っていかれてしまったようだった。

「おい、蜂散」
「お、なになにユフィちゃん?」
「(くっこいつ…!)……お前がデートに誘うんだからな!俺は一切身銭きらねぇぞ!!」
「………わかったww最初のデートで身銭きらねェとか宣言しちゃうあたり男らしいねェユフィww」
「だ、黙れよ、お前がデートしたいんであって俺はデートしたいわけじゃないんだからな!だいたい俺は男なんかとデートするのは…!」
「それは今の俺には禁句だって…で、何処行きたいの、ユフィちゃん?」

ち、ちくしょうこいつちゃん付けしやがってぶっ殺してェ!!
でもこれはあのかわいいぬいぐるみを手に入れるまたとないチャンスだという事はユフィには良く分かっていた。
俺がこの変態とデ、デートするのはあのぬいぐるみのためであって、俺がこいつに押されてるわけじゃねえんだ、絶対!!
ユフィは腹をくくったように蜂散を見上げると、かみつくようにデート先を告げた。








 

思い切って加速

( え、ゲーセン!?ユフィちゃん思いっきり金使わせるつもりかよ!?)
( はっはっは言っただろ俺は一切身銭きらねェからな!!)








龍夜様宅ユフィくんをお借りしました!




2009/11/13(Fri)
ADMIN