やめろ、
嫌いだ。
俺はお前が嫌いだと、そう呟いたハチルの横顔を見た。
「知ってるよ、そんなこと」
むすりと膨れるハチルに笑いながら一言くれてやれば、
ハチルは泣きそうな顔で目を伏せる。
「じゃあなんで、」
「お前の全てがあたしじゃなくても、あたしの全てはお前なの」
ピシャリと一声そう告げて、あたしは猫のようにするりとハチルの腰に手を回す。
びくりと体を震わせたハチルだったけど、恐怖からなのかそうでないのか、とにかく抵抗はしなかった。
ハチルの背中にぴったり自分の体を寄せて、背筋にそっと囁く、
「お前はあたしのものなんだよ」
くつくつと笑って上目遣いにハチルの横顔を見上げると、ハチルは背中にくっついたあたしをじろりと見下げた。
「クイン、お前は、」
「静かに…口答えされるとムカついてくんだろ…殴られたいのか?」
「……っ」
悔しそうに唇を噛み、ゆがんだその表情がたまらなく愛しく見える。
腰にまわした腕をするりとズボンのなかに入れてみたら、ハチルは弾けたようにその手を払って、
珍しく真剣な表情で、小さくつぶやいた。
「やめろよ」
「なに」
「俺は、もうお前の玩具はやめたんだよ」
へぇ、抵抗すんのか、なんて何処かでハチルの発言を面白がっている自分に気がつくと、
ますます口角が上がるのが判る、どくん、と心臓が脈打つのが判る。
無意識のうちにあたしは眉根にしわを寄せるハチルに口を開いた、
「そんなこと、お前に決める権利なんてねェんだよ」
「………っ、だからっ、!」
「うるせェ!!」
思わず口から怒鳴り声が出た。
かっとハチルをにらみつけ、あたしは勢いもそのままに乱暴にハチルを叩きつける。
ぐぁ、と小さくも呻いたハチルの鳩尾に一発、握ったこぶしを叩きこんだ。
苦痛の表情を浮かべて、ずるずると、長身のハチルが体を曲げる。
「お前はあたしのモンなんだよ…、わかんねェのかよ?」
「だ、…から、もう俺はっ、」
「あたしにはっ、!お前しかいねェんだ、!!あんたに逃げられたら、あたし、!」
「く、いんっ、」
「あたし、あたしっ、どうしたらぁっ」
「クインッ!!」
怒鳴っているうちに冷静さが欠け落ちて、
ハチルに否定されたくなくて、ハチルに見捨てられたくなくて、
あたしはただただ喚いて喚いて、ひたすら自分の真っ黒な感情を吐き出し続けた。
それなのにハチルは突然大声を出したかと思うとがばりとあたしを抱きしめ、そのまま引きずられるようにあたしは崩れ落ちる。
「クイン、」
クイン、クイン、ハチルは耳元でずっとその名を呼び続けるから、
イヤだと言って、口ではそうやって拒絶して、それでもまだあたしをこんなにも優しく抱きしめやがるから、
だから、だからあたしは、ますます何がなんだか分からなくなって
ただそこにハチルがいることが全てで
しがみついてはなれたくない、強く背中に立てた爪が、痛む。
あたしは守ったって仕方のないエゴばかり必死になって守ろうとしているのに、
ハチルはこんな下らないあたしを結局最後まで抱きしめて、名前を呼んでる。
だからあたしはハチルがいないとダメになる。
いつまでもこうやって、抱きしめて、名前を呼んでくれないと、あたしは、
泣いて、泣いて、わけが分からなくなるまで泣いて、
いつかきっとおかしくなるんだ
エゴマニアの溜息
ハチコはクインから逃げたくてしょうがないハズなのに優しいハチコはどうしても見捨てることができないでいるといいなぁと