例えばの話。
例えば、きみがこの世界にいなかったとしよう。
そうしたら、まずはじめにこの世界から消えるもの、それは、いったい何だと思う?
鯉壱が口を開く前に、俺はそれを遮った。
人差し指を軽く彼の唇にあてて、こう微笑むんだ、「答えは俺」
鯉壱は困ったようなあきれたような表情を浮かべて、俺の頭をそっとなでた。
「僕がいない世界に、ハチコは存在できないっていうの?」
「当然だろ鯉壱ちゃん、花が開くのに太陽光と養分を必要とするように、俺には鯉壱がいないとダメなんだ」
大人しく頭をなでられながら、俺はくつくつと笑った。
鯉壱は小さなため息をひとつ、地面に落とす。
「じゃあハチコ、ハチコがいない世界で、はじめに消えるものは何だと思うの?」
何となくさびしげな顔で、そう呟いた鯉壱の考えてることなんて俺にはお見通し。
鯉壱ちゃん、と笑って言うのは簡単で、でもその答えがあり得ないということも分かり切っていた。
きっと彼にも判っているんだ、だからこんなにさみしそうな顔をするんだ、
俺がこんなにも鯉壱を愛していることを知っているから、だから鯉壱はさみしそうに笑うんだ、
俺の存在そのものが鯉壱に与えてる影響なんて誰から見ても明らかで、
俺は鯉壱に干渉しちゃいけない存在だなんてこと俺が一番よく知ってて、
俺はモンスターだから、鯉壱とは相いれないいきものだから、
俺の言葉が鯉壱を傷つけることも、俺が言わんとしている言葉が鯉壱をどんなふうにしてしまうかも、
分かっていた、分かっていたけどどんな理屈や論理よりも、俺は鯉壱が好きなんだ。
俺はモンスターだから、世界中のどんな事より、俺が鯉壱を愛していることのほうが重要なんだ。
「鯉壱ちゃんだといいな」
にっこり笑ってつぶやいた言葉は、思った通りまた鯉壱をさみしそうな顔にした。
性懲りもなく君を愛すよ
( キミがなんて言おうと、なんて思おうと、愛しているんだ )
ハチコが鯉壱に注いでる愛情は一方的すぎて、思いが強すぎて、おかしくなりそうなところがある。モンスターはもともと愛を知らないので、ハチコはどっちかっていうと自分中心の恋愛感情を持ってて、でもそれを冷静に判断できる余裕はまだある。 でも止められない。鯉壱が好きなのに、鯉壱が悲しむ顔は見たくないのに、たまに暴走する。だから鯉壱はなんとなくハチコが理解できなかったりする