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2025/01/15(Wed)
ADMIN
ゆらゆらと風に揺れるその金の髪が、夕暮れと混じって、彼女がどこにいるのか判らなくなった 白い白い包帯と、真っ黒な眼帯が彼女を痛々しく映えさせる。
二ータ、と呼べば彼女は、さっと振り返って声も立てずに笑うから、
二ータがいつのまにかそのままいなくなっても、
俺以外の誰も気づかないんだろうなと想うと泣きたくなった。

「なんでそんな顔してるんですかぁハチルさん?二ータの笑顔は破壊力抜群でしたぁ?」
「るっせぇなぁ、そんなんじゃねーよ」
「うそだぁwあたしはハチルさんの事なら何でもわかるんですからねぇ?」
「はいはい勝手にほざいてな」
「やーん冷たいぃw」

にやにやと走りよってきた二ータは相変わらず嫌味の混じったねちっこくて甘ったるい声でハチルを攻めた。
これぐらいの攻撃はいつもの事で、でも普段ならここでクインを持ち出す彼はもう少し様子を見たくて笑みを浮かべたままにータに顔を寄せた。

「なァ二ータ、お前、俺がいなくなったらどうする」
「…変なこと聞くんですねぇ?」
「いいから気にせずに」
「ハチルさんがいなくなったらぁ、二ータはクイン様を独り占めできて万々歳ですぅ」
「ふーん、そう」
「あれぇ?反応冷たいですねェ…やっぱり今日のハチルさんは変ですぅ」

まぁひねくれ娘のニータの事だ、そういう反応をするだろうなんてことは判っていた。
ぱっとニータの笑顔が拗ねた時の表情に代わる。
それを待っていたハチルはすかさず次の質問を彼女に問うた。

「俺にいなくなって欲しいと思う?」
「ハチルさぁん?」
「どう?俺がいなくなったらクインはお前の事見てくれるって、愛してくれるって、そう思う?」

関を切ったようにゆっくり、でも静かに威圧を込めた彼の意図が伝わったのか、ニータは一瞬不安げな色を瞳に浮かべた。
そして口を開きかけたかと思うと、そのまま何も言わずに閉じて、ハチルを見上げる。
何も言わないニータを見て、ハチルは少し安心した。

「お前は賢いよ」

判ってるんだ、クインが自分を愛さないであろうことはとっくの昔に彼女の脳裏に焼き付いている。
それでも彼女はクインに愛されたがっているから、何も得られないその行為の自覚を、ハチルは確かめたかった。
ニータが自ら自分の首を絞めているのに気付いていて、それでもますますその手に力を込めるのを彼は見ていたくなかったから。

でも彼女は、判っていたんだ。
自分の行為がどれほど滑稽なことであるかなんてことは。

「…ハチルさん」
「お前、俺の事恨んでるだろうな…もとはと言えば、全部、」
「ハチルさァん!!」

ニータは突然声を荒げたかと思うと、ハチルの胸倉を思い切り掴んだ。
自分より30センチも低い子供に、胸倉掴まれたって怖くもなんともない。
ただ殺気立ったニータの眼帯で覆われていないほうの瞳がぎろりと自分を見つめるのを、ハチルは冷めた目で見下ろした。

「バカに、しないで」

そう言った彼女の声は震えていたような気がした。

「クイン様のことは、ニータが、勝手にしてることなの、」
「…………………」
「だから、ハチルさんは、関係無いわ」

言いきってからそっとうつむいたニータの頬に光ったものを、ハチルはただ黙って屈み込み舌ですくった。
関を切ったように彼女の瞳から溢れだす涙が、ひたすら重力に従ってしたたり落ちる。

「ニータ」

顔をゆがめて、崩れ落ちた彼女をその腕の中にしっかり抱いて、
黙ってハチルは黒に覆われていないほうのその瞼に、キスを落とした。






そうなるまえにと君を愛しておいたのに

( やっぱり君は望んで地獄を選ぶんだね )




痛い子ニータとハチルさん


2009/12/27(Sun)
ADMIN