がちゃり、ドアを開けたとたん、
見覚えのあるようなないような男の顔が視界に入った 「こんにちは」
「………どうも」
困ったような、というか申し訳なさそうな、というか
彼は弱り果てた顔をして、俺の目の前に立っていた
俺はただ開けかけた口をどうにかこうにか閉じてしまって、彼が投げたあいさつに何とか返事を返す
その身長の高さに俺は彼を見上げるような格好になるのだが、
それでも俺がぽかんと彼の顔を見つめているうちに、彼のほうからこうつぶやいた
「隣に住んでる者です、あんまり顔出さないから、分からないかな」
あまりに俺が彼をじろじろ見るもんで、彼はどうやら怪しまれていると勘違いしたらしい
そうして漸く俺も彼を思い出した、隣に住んでる灰色オーガの彼は、帽子屋をしてると聞いたことがある
その頭に乗った洒落た帽子を見て、俺は慌てて彼に謝った
「あ、いや、ごめんなさい…俺こそ、その、仕事ばっかりであんまり家にいないから…」
「気にしないで、それは俺も一緒だから」
困ったように笑う彼の笑顔は優しくて、俺はなんだかその笑顔に見とれてしまう
この世の中にはこんなにやさしく笑う人がいるのか、
ちらりと脳裏によぎった意地汚いニヤニヤ笑いに俺は思わず顔をしかめる
「エマちゃんだよね」
「え?…あぁ、はい、そうです、エマージェンシープログラム…」
俺がいい終わるか終らないかの間に、背高のっぽの彼は、はい、と何か小さな包みを俺によこす
名乗った覚えはなかったものの、手渡された包みの中身が気になって俺は首をかしげた
俺が口を開ける前に、彼が小さく笑って言う
「落ちてたよ。今日は風が強いから」
落っこちてた?、彼の言葉を不思議に思って包みをひっくり返す
中身を引っ張り出すと、それは俺のYシャツだった。きっちり名札付き。エマージェンシープログラム。
洗濯物が風にあおられて落ちてしまったのだろう、彼はわざわざ拾って届けてくれたのだ
洗濯までしてくれたのだろうか、いい香りがする挙句、きっちり綺麗にアイロンまでかかっていた
俺が隣人のあまりの親切さに感動して口をパクパクやっていると、彼は先ほど見せた柔らかい笑顔で俺に手を振った
「じゃあ、俺はこれで」
「、あの……!!!」
何も言わずに笑って去ってしまおうとするそのかっこよさ、あのヒモ男にも見習わせたい。
とにかくかっこよすぎるその振る舞いにひとまず一言お礼を言わねばと、
俺は思わず彼の腕に手を伸ばしていた
「?」
引きとめられた彼の顔が、少し驚いたような表情を見せて、
俺は口を開けたまま静止する、
「あ、あの、……!!ありがとう、ございました、…!!このご恩は必ず、…!!!」
恥ずかしくなるような途切れ途切れの俺の声に、灰色の隣人はただ笑って言った
「こちらこそ。会えてよかった」
ばたん、と閉じた扉に背中を預けて、まっ白いYシャツを抱えたまま、
俺は誰にともなく、そっと微笑んだ
もしもDaddyとエマちゃんがおんなじマンションに住んでたら