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2025/01/15(Wed)
ADMIN
「エマ」

偶然、とでも言いたげな顔でにっこりと彼は微笑んだ
ストーカーかお前は、そう言って、俺はじっと目の前の男を睨む
人も少ないバスの中で、フリッカロッタは軽い足取りで後ろの方の席に座っていた俺のそばへとやってきた
「何処行くの?」
「帰るんだよ」
「そう。じゃあ、家まで送ってくよ」
「バス乗ってるやつが言う台詞か?それ」

よいしょ、とフリッカロッタは図々しくも開いていた俺の隣の座席に座って、
疲れ果てていた俺は彼を拒絶する気も起きずに、犯罪者が隣に座るのをただ黙って眺めていた
すっかり暗くなった夜の街を、バスはのろのろと進んでいく
結露で白くなってしまったバスの窓を手のひらでこすれば、
そこからは切り取られたようなオレンジや白や黄色の、街の夜景が見えた

「ねェエマ」
「なに」

心地よい振動のせいで俺が少しぼうっとしていたのをいいことに、
隣で小さく声を出したフリッカは、俺の頭を撫でながら言った

「俺さぁ、少しの間、エマに会えなくなるかもしれない」

ぼんやりと窓の外を眺めていたら頭の上からあまりにも抽象的な言葉が降ってくるから
犯行予告?と俺が首を傾げれば、フリッカロッタは無邪気に笑った

「さァね。それを調べるのがエマの仕事だろ」

バスが赤信号につかまってゆっくりと止まって、その拍子に俺の頭に伸びていたフリッカの手が前の座席にかかる
俺の頭から離れてしまったその手をぼんやり見つめながら、その言葉について考えようとしたのだけれど
疲れ切っていた俺の頭はもうすでに睡魔におぼれかけていて、どうしてもその言葉の意味を理解しきれなかった

フリッカは意地悪だ。
俺の頭は前々から分かり切っていたこの男の性格にもう一度ため息をつく
わざわざこんな時に、俺の前に現れなくったっていいのに。
もう難しいことを考えるのはやめよう、どうせこの男の気まぐれなんだ。
そう結論付けてふとフリッカを見上げると、その時ちょうどバスは動きだした

「眠い?」

フリッカの手が、また俺の頭に伸びる
ねむくねェ、と口を開きかけた俺だったけれど、その手でぽんぽん、と頭を撫でられるのは嫌な気分じゃなくて、
彼の手に導かれるままあっさりと俺は頭を彼の肩に預けてしまって
ぼんやりしていた頭の中が、ますますもやがかかったように働かなくなる、気づけば瞼も重たいような気がする

「寝ていいよ。ちゃんと起こしてやるからさ」

そう柔らかく言ったフリッカロッタの声が、少し優しすぎるような気がして、
こいつ俺だけ置いて行くつもりじゃねェだろうな、一瞬そんな風にも思った俺だったが、
難しいことを考えるのはやめよう、どうせ全てこの男の気まぐれなんだから。
あっさりと睡魔に白旗を上げてしまった俺は、そのままフリッカの腕の中に、落っこちていったのだった。




たまにはこういう甘ったるいだけのもいいんじゃない 無意識のうちに頭撫でたり髪をいじったりしてる男はかわいくていいよねっていう


2011/11/27(Sun)
ADMIN