おっさんアホですか、とあたしがそう言ったら、ハチルは何も言わずにうんざりした顔であたしを見つめた。おっさんじゃねェし、とむくれる彼の頬を見つめながらもぼんやりとはいえその表情がかわいいと思ってしまうのだからあたしもこの男に甘い。 そもそもこの男のアホな浮気癖は承知していて、仕方なくとはいえ了承してやっている。あたしはこの人の過去に何があったか知らないし、大してそれを知りたいと思ったこともない。何がどうしてこんなにヘタレになっちゃったんだろうと思ったことはあるけど、生まれたときからヘタレだったのかもしれないし、別にそれが性格ならそれでいい。あたしもハチルもそうやってお互いにあまりかかわり合わずにいて、だからこそあたしもこうして限りなくラフな感覚でこいつとつきあっていられるのだった。他人が一番。相手がこんなろくでなしだと、なおさら。
「それで、なんて」
「別れてくれって」
「つきあってもないくせにかよ」
「つきあってたの」
「ふうん」
コーラをすすりながら、あたしは曖昧な感想を吐いた。つきあってるつきあってないの定義は、あたしにはまだ少し難しい。ハチルが言うには、愛しているだけではつきあっていることにはならないが、愛がなくてもつきあっていることにされることはあるらしい。あたしの最初の恋人は、あたしのことを恋人とは思ってなくて、それでもあたしはつきあってると思ってて、そう言うのと似てるんだろうか。
ぼうっと考えながらチーズバーガーをむしゃむしゃして、それからハチルの顔を見上げた。彼は相変わらずむくれたまま、というか憂鬱そうに窓の外を眺めていて。ちょっと高めの身長だけど、彼があたしを見下ろしていると感じたことは一度もなかった。キレイな横顔だなって、いつも思ってた。
「好きだったの」
「うん」
ぼそりと彼は言う。おかしな話だ。好きだった女にフラれた話を今つきあってる女にする。ほかの女ならキレるだろうか。そんな話を聞いてもキレるどころか彼に同情するあたしがおかしいのか、そんな話をあたしにするハチルがおかしいのか、あたしにはわからなくなっていて、なんだかそれさえどうでもよくなっていて
氷ばかりになった紙コップの中で、ストローが空気ばかりを吸い込む。なんだかむなしかった。
「難しいことはよく分かんない」
「難しくなんかない。好きなのに上手くいかない、ってはなし」
困ったように笑いながら、ハチルはあたしがよけておいたピクルスに指をのばすと勝手に食べた。外ではしてるハズの手袋も、今日はしてない。あたしはケチャップがついたその指を見つめながら、ただため息をつく。
苦笑するハチルの顔が好きだなとおもったのは、出会ってすぐの頃。それはいまも変わらない。隠す必要もなかったから、隠そうとも思わない。だからあたしたちはこんなにも心地いい距離のままでいられる。
「食わず嫌いだろ、これ」
「明らかに美味しくなさそうじゃん。なんではいってんのかな」
もぐもぐと口を動かしながら、ハチルは言う。答えなどはじめから分かっていながら、あたしは文句を言った。
「食ってみたら、好きになれるのかね」
「女の子が食うとか言うなよ」
夕暮れ時。あたしが空っぽにした紙コップ。あたしがくしゃくしゃにした包み紙。それから、あたしにむかって呆れた声を出すハチル。
ああ、この男も、あたしも、本当にどこまでもバカだ。
それすらもあいのかたち