眠たい瞼に落ちてきた冷たい感触が、俺を夢から現実に引き戻した
驚いて目を瞬かせればすぐそこで微笑んでいるのは見慣れた顔のフリッカロッタで
頬にグリグリ押し付けられているその冷たい感触も見慣れた自分のピストルであることは一目でわかった 「おはようエマ」
ベッドに寝ている女の上に馬乗りになって銃を突き付けている男の第一声とは思えない、のんびりとした声が俺の耳にかかる
フリッカは目を見開いて固まったままの俺をちょんちょんと銃で小突いて見せて、
オイ、大丈夫かァ?なんて本気で首をひねって見せるから全くこの男の思考回路はどうかしている
今に判ったことじゃない彼の重大な欠陥を改めて認識しながら、それでも俺は彼の前で動けなかった
いつもの薄ら笑いならどれだけ安心できたか分からない、フリッカはただ不自然なほど優しく微笑むから、
背中に走る悪寒に慌てて彼から離れようと、俺はベッドに手をついて起き上がろうとする、
「そんなに怖がんなくたっていいだろ?」
すぐそこで聞こえた声に俺は眼を見開いた
あっという間にフリッカは俺の手を抑えつけてしまったあとで、起き上がったはずの俺の背中はまたベッドに押し戻される
ベッドの軋む音に重なって、俺は自分が無意識のうちに呻いたことを知った
見上げれば数センチ先、フリッカの声が俺の鼻をかすめる
「どうした?、顔色が悪いぜ」
フリッカに重くのしかかられたままの足が、じわじわと痺れてくる
薄いシャツの下で、心臓が暴れる音がする
視界のはじに、彼が持ったままのピストルの冷たい光がちらりと映る
笑ったままのフリッカの指が、押し倒された拍子に乱れた俺の髪を撫でた
その手は一瞬だけ俺の頬に降りて、それから添えられた手は顎に伸びる
薄暗い部屋にまだ明けきっていない朝の青くて湿った空気がゆっくり俺の肌を撫でて、
俺は恐る恐る息をしているのに漸く気がついて、
「エマ、」
フリッカはもうその手にピストルを握ってはいなかった
冷たく光る凶器の代わりに、彼の手に触れていたのは俺の手で
「エマ」
撃ち込まれたのは鉛の玉なんかじゃなくて、
その口からこぼれた俺の名前で
それでもその声を聞くなり、俺の胸は強烈に痛みだす
それが何故なのか俺には本当はもう分かっていて、だからこそ俺は彼に微笑み返すなんて器用なことはできなくて
いつの間にか肩で息をするのも苦しくなって、我慢できずに俺は思い切り声を上げた
薄暗いままの部屋が、見上げた先の男の顔が、そうっと涙でぼやけていった
君の声に殺される
( はんげきさえ、できない )
フリッカはエマいじめが大好きなのでいろんな方法でしょっちゅう泣かせてると思います