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2025/01/15(Wed)
ADMIN
気がつくと、キッチンからかちゃかちゃと何かを描き混ぜる音が聞こえていた
誰が何をしているのか、正直彼にはもう予想はついていたのだけれど、
ぼんやりとそこだけ灯る光の方へ、鯉壱は寝ぼけ眼をこすりつつ、ふらふらよたよた、ゆっくり歩いて行くことにして
覗きこんだキッチンで思った通り、いつもの笑顔がちょこんと彼を出迎えた 「りょくろちゃん、なにしてるの?」

口を開いてむにゃむにゃと声を出せば、その拍子に小さく欠伸が出た
真夜中のキッチンに可愛い女の子がマグカップ片手に立っているのは、ここではそう珍しい事じゃないけれど
眩しい明りに目を細めながら彼女を見つめる鯉壱に、緑露は柔らかい笑顔を浮かべてから彼のくちゃくちゃになった髪を細い指で整えながら言う

「そろそろ起きてくる頃だと思ってましたわ、鯉壱サマ」
「ぼく?」
「だって今日はあんなに早く寝てしまったでしょう?きっと夜中に目を覚ますだろうって、思ってました」

呆れ交じりの彼女の声に鯉壱はただただそっと苦笑して、やっぱり緑露ちゃんはすごいなァ、ぽつりと発せられた言葉は緑露の笑顔に変わった
彼女の大きな手のひらから、これ以上ないというぐらいに丁寧な動作で、マグカップは鯉壱の手に渡る
じんわりと冷たいそのカップをそっと受け取って口をつけると、その口の中にあっという間に甘い香りが広がった

寒くて眠れない冬にも、緑露ちゃんはこうやってとびきり甘いエッグノッグを作ってくれたんだっけ。
見上げればそこにはあの時と同じ、微笑む緑露の笑顔があって
手にしたカップは冷たくても、暖かい冬を思い出すその飲み物は、乾いた鯉壱の喉を潤すとびきり特別な睡眠薬だった

「あまいね」

独り言のように呟いて、鯉壱は誰にともなく小さく微笑む
あのときも僕はこう言ったっけ、それから緑露ちゃんは、こうやって笑ってた

『魔法の隠し味が入ってますから』

ティースプーンにきっかり一杯。
多すぎず、少なすぎずがその甘さを引き出す秘訣なのだと

キッチンの戸棚の隙間から、こっそり覗くはちみつのラベル
自分の目がキッチンの明かりに慣れてしまう前に、そっと鯉壱は両目を閉じた




睡眠薬をスプーンにのせて




はちみつの日ように エッグノッグ美味しい




2011/08/03(Wed)
ADMIN